
7年ぶりに東証の前に立ち、「出来事」を覚えているかと尋ねると、菊地さんは大きく頷いた。実は、再訪には東郷氏も同行してくれた。歩道の上での菊地さんの受け答えに、東郷氏は終始、「そうだったかな」「そうだね」と笑顔を絶やさない。2人の脳裏には、同じ光景が甦っていたのだろう。
■ロイヤルで挑む 社員と双方向で向き合う説明会
あのとき、会見場の最後方に立ち、東郷氏のたたずまいをみつめ、涙をこらえていた。
「トップとは、このように振る舞わなくてはいけないのだ」
そう学んだ体験が、ロイヤルでの選択や決断の際の『源流』となる。例えば社長になった翌月、全国のレストラン「ロイヤルホスト」の店長と料理長の合同会議を開いたときだ。事前に集めた約200の質問にすべて答え、コミュニケーションを深めるつもりで、時間をたっぷりとってもらっていた。
だが、話していると、自分の言葉が相手の胸に全く刺さっていない、と気づく。集まった質問の中に、「まだ新社長から何のメッセージももらっていないのに、コメントも何もありません」とあったことを思い出す。「双方向の対話」のつもりが、独りよがりの一方通行になっていた。これでは、トップとして社員たちときちんと向き合っていない。
翌春、今度は12月期の本決算を社員たちに詳しく解説し、策定した経営ビジョンと重ね、それぞれが何をしていかなければならないかを質疑する決算説明会とした。東京の本部と福岡や大阪のオフィス、都内や大阪の工場とをテレビ会議でつなぎ、希望者は誰でも参加していいようにする。投資家には決算や経営戦略の説明会を開いているのに、社員たちには何も語っていない──反省は、『源流』で学んだ「トップとしての振る舞い方」を思い起こすことから、生まれた。2日間の予定が、参加希望が多くて、1日追加する。今度は、手応えがあった。
■「頭取を守ろう」と「自分の生活は?」 2人の自分がいた
東証への『源流Again』の後、日債銀の本部・本店があった東京・九段下へ向かう。本店があったビルは姿を変えていたが、国有化前に記者たちの目をくらますために泊まったホテルや、同僚たちと先行きの不安を語り合った居酒屋はあった。