森の中のサマーハウス(カプセルハウスK) (c)MIRAI KUROKAWA DESIGN STUDIO
森の中のサマーハウス(カプセルハウスK) (c)MIRAI KUROKAWA DESIGN STUDIO

 父が亡くなり息子は父の会社を継ぐが、そこには膨大な借金も残されていた。

「父は世界のコンペで闘い続けていた。そのためにも運転資金を必要としていたんですね。父が死ぬとたちまち資金が枯渇して……」

 父の会社で激務の中、役員、社員から父のことを毎日のように聞く日々が始まった。もちろん良いことばかりではない。怒鳴られたり、叱咤(しった)されたり。殆(ほとん)ど知らなかった父の日常が見えてきた。「睡眠は3時間以内。それ以外は事務所での設計か、本を書くか、読書か。とにかく努力の人だったと知ったのです」

 息子は父の作品を語った。「森の中の空港というテーマで設計されたクアラルンプール新国際空港は連鎖する森のような機能に対するデザインが高い次元にあるし、大阪の国立文楽劇場には伝統的なディテールが編み込まれ、それでいて和の建築ではない。見事と思った」

 改めて話を聴いたのは半蔵門のビルの一室。夕刻になり、隣の建物も彼の父の作品だと気づいた。そのワコール麹町ビルを見上げ、今度一緒に黒川紀章が関わった建築を観て歩きたいと思った。

延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー。小説現代新人賞、アジア太平洋放送連合賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞など受賞。新刊「松本隆 言葉の教室」(マガジンハウス)が好評発売中

週刊朝日  2023年6月2日号

暮らしとモノ班 for promotion
大谷翔平選手の好感度の高さに企業もメロメロ!どんな企業と契約している?