5日目の午後、報道陣に紛れ込んでいた9人の刑事に取り押さえられ、金は逮捕された。金は75年に無期懲役判決が確定する。99年に仮釈放され、両親の故郷である韓国・釜山で暮らした。2010年、81歳で死去。
■紙を求めて殺到、お婆さんが骨折
73年には好景気を一変させる出来事が起きた。第1次オイルショックだ。この年10月、エジプトとシリアがイスラエルに攻撃を開始し、第4次中東戦争が勃発。それに伴いOAPEC(アラブ石油輸出国機構)10カ国などが石油価格の大幅引き上げと、イスラエルを支持する西側諸国への禁輸・供給削減を宣言した。
エネルギーの8割近くを輸入原油に頼っていた日本も例外ではなかった。11月、政府は石油緊急対策要綱を閣議決定、総需要抑制政策が採られ、石油や電力の節約が進められた。これが物不足への不安につながった。オイルショックを象徴するトイレットペーパーの買いだめ騒ぎは、関西が発火点となり、全国に飛び火した。トイレットペーパーやちり紙、合成洗剤、砂糖などがスーパーの棚から消えていった。
11月23日号は、その狂奔ぶりを報じた。
<「トイレットペーパーは在庫が全然ない」「午前と午後では値段が違う」と、うわさがうわさを呼び、紙を求めて“仁義なき戦い”が始まった。
“戦い”となれば、負傷者も出る。尼崎市の灘神戸生協園田店のスーパーマーケットに、トイレットペーパーを買うため朝早くから主婦たちがつめかけた。午前十時開店というのに、九時半には、約二百人の人垣。主婦たちは、われさきに店内に突撃した。八十三歳のおばあさんが、押し倒され、左足を折って二カ月の大けが。こうなると紙を買うのも命がけだ>
首都圏のスーパーでは4万円分の洗剤を買いだめ、自家用車に積んでいくツワモノも現れた。12月7日号のルポでは、人々が買いだめに知恵を絞るさまが描かれる。
<まだ品物があった同(西友)ストアー東久留米駅前店では、「一人ひとつ」という数量制限があるので、四人家族総出で洗剤、石けん、ちり紙を買うファミリー買いだめ客をみた。贈答品売り場では、妻が夫に、夫が息子に「砂糖つめ合わせ」を贈る伝票を書く、珍妙な光景を目撃した>