横:去年の7月、あの安倍晋三さんが狙撃で亡くなった日の5時間前に、急性心筋梗塞を起こしたんです。
帯:横尾さんが。
横:それで、救急車で運ばれました。
帯:そうなんですか。
横:即カテーテル手術を受けて。
帯:大変でしたね。
横:死に損ないました。とにかくあの痛さと苦しみは、医学的にもナンバーワンらしいですね。そんな時に生きたいっていう気持ちが起こらなかったんです。このまま死んだほうが楽だなって思ったら、死に対する恐怖感はゼロになって早く死んで救われたいと思いました。
帯:私も80代になって、死については、やっぱりだんだんなじんできましたね。だから、もうそろそろ逝ってもいいかなって思う。
長年、一緒に仕事をしてきた私と同じ年の看護師がいるんですが、2年前に足を悪くして下半身が利かなくなっちゃった。運転が得意だったのに免許証を返上して、その頃からうつになってしまった。彼女が「私もう死にたいわ。先生、一緒に死んで」って言うんです。3週間ぐらい間をおいて、3回言われました。「そう言うなよ」と言って立ち直らせようとしたのですが、3回目には、もう一回言われたら、一緒に死んでやろうかと思いました。まあ、いいか、死ぬのも悪くないかという心境です。結局4回目はなくて、彼女はひとりで死んでしまったので、死なないままになったんですけど。要するに、向こうには親しい人がいっぱい逝ってますからね。早く逝って、一緒に一杯飲みたいなと思うんです。
横:僕も若い頃は死に対する恐怖感が強かったんですけど、もうこの年になって死と直面したので、先生と同じように死をどっかで期待してるところがありますね。
帯:そうですね。本当。
横:死ぬ瞬間に痛いとか苦しいのは、嫌ですけれど、あれが死だったのかと思うと、そんなに怖くないですね。向こうの世界は虚無の世界だとか思ってませんから。向こうはこちらの延長、次元が変わるだけですからねえ。だから、向こうは向こうの楽しみがあるんです。
帯:そのとおりです。