AERA 2023年5月15日号より
AERA 2023年5月15日号より

「日本の難民認定は、難民側にあまりにも高い立証責任を課しています。『灰色の利益』という言葉がありますが、疑わしきは申請者の利益として保護すべきです。そのためには、絶大な裁量権を持つ入管から独立した難民認定組織をつくらなければいけません。日本はあまりにも人権問題に無頓着すぎる。国際的な基準やルールを顧みない政策を続けていれば、国際社会から取り残されます」

 移民政策に詳しい国士舘大学の鈴木江理子教授は、改正法案が成立しても、帰れない事情のある人は死に物狂いで抵抗するので、送還忌避者の問題は解決しないと見る。

「生きることすら困難な状況に追い込まれ、子どもたちの夢が奪われている現状を改善するためには、排除ではなく、適切な難民認定審査(難民保護)と人道的な観点からの在留特別許可が必要です」

 在留特別許可とは、人道的な視点から法務大臣が特例的に在留を許可する措置のこと。在留資格が付与され、日本で正規に滞在することが可能になる。

「その上で、外国人を管理の対象としてではなく、権利の主体として位置づけることが大切です」(鈴木教授)

■生きる権利がある

 在留資格がないというだけで「不法」とされ、一切の権利がないかのように扱われ、国から出ていけと言われる。人権とは、国籍や在留資格にかかわらず保障される「人間としての権利」である。日本も締結している国際人権規約には、国籍を問わず外国人と自国民とを同じに扱う「内外人平等の原則」がある。管理を目的とする現行の入管法のみでは不十分であり、外国人の権利を明記した基本法を制定することが重要だ。さらに、基本法に照らして、入管法を「改正」することと、難民を保護する新たな法律を制定することが必要と、鈴木教授は説く。

「ある国の人権とは、最も弱い立場にある人にも認められる権利です。外国人の権利をないがしろにする国は、自国民の権利も軽んじます。外国人の権利を保障することは、国民の権利の向上にもつながり、社会にとって大きなメリットです」

 4月28日、改正案は衆議院法務委員会で可決された。今後は参議院などでの審議が続く。

 非正規とはいえ、暮らしているのは外国人である前に、一人の人間だ。

 ナイジェリア人のエリザベスさん(50代)は声を震わせ訴える。

「何で逃げてきた外国人に差別をするのでしょうか」

 母国での女性性器切除(FGM)の強制などから逃れ、33年前に来日。仮放免で暮らし、2度目の難民申請中だ。母国に送還されれば殺される、日本で穏やかに暮らしたいと話した。

「私たちも人間です。私たちも生きる権利があります」

(編集部・野村昌二)

AERA 2023年5月15日号

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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