「帰るに帰れない人たちは、送還されれば生命が危険。入管庁は、何度も繰り返す難民申請を送還逃れの『乱用』というが、何ら証明していない。迫害を受ける危険のある国へ送還してはならないとする、日本も批准している難民条約に定めた『ノン・ルフールマンの原則』にも反する」(指宿弁護士)
■難民認定率0.7%
そもそも改正案は一昨年の通常国会にも提出された。だが、スリランカ人女性のウィシュマ・サンダマリさん(当時33)が名古屋入管で収容中に亡くなり、世論の批判が集中し廃案に追い込まれた。今回の改正案は、廃案となった改正案の骨格を大枠は維持している。
そこまでして入管が送還忌避者を帰国させたいのはなぜか。指宿弁護士は、「基本的に入管のメンツ」と指摘する。
「そのメンツは、特別な思想に支えられています。それは、外国人は危険な存在であって徹底的に管理しなければならず、強制送還に応じないような外国人を日本に置いてはおけないというもの。人権上の問題があろうが絶対に帰国させなければという、ゼノフォビア(外国人嫌悪)に基づく考えです」
実際、日本の難民認定のハードルは高く、国内外で「難民鎖国」と批判を浴びてきた。NPO法人「難民支援協会」の調べでは、主要7カ国(G7)の難民認定率(21年)はイギリスが63.4%、カナダは62.1%、アメリカは32.2%。対して、日本はわずか0.7%だ。この歴然とした開きに、在日クルド人を支援する団体「在日クルド人と共に」(埼玉県蕨市)代表理事の温井立央(たつひろ)さんは、「保護されるべき人が保護されていない」と批判する。
「現在、日本には約2千人のクルド人が暮らしていて、ほとんどの人が難民申請を行っています。トルコに送還されれば命の危険にさらされ、差別や迫害を受ける人も少なくありません」
だが、日本政府は、親日国のトルコ政府との友好関係を崩したくないという外交上の理由から、日本に住むクルド人を難民として認めてこなかったといわれる。これまでトルコ国籍のクルド人で難民認定されたのは1人だ。温井さんは言う。
「保護を求めている人は保護すべきであって、外交に左右されてはいけない。入管とは違う別の第三者機関が、人権という視点に立って認定するべきです」
■独立した認定組織を
求められる対策は何か。
指宿弁護士は、入管法改正案は「廃案」にして、「難民の認定は国際基準に基づき行うことが重要」と語る。