仮放免で暮らすクルド人の若者。働くことができないので夢も持てない。いつトルコに帰されるか、考えると怖くて仕方がないと話した(撮影/伊ケ崎忍)
仮放免で暮らすクルド人の若者。働くことができないので夢も持てない。いつトルコに帰されるか、考えると怖くて仕方がないと話した(撮影/伊ケ崎忍)
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 難民認定の申請中でも、外国人の送還を可能とする入管法改正案。一度廃案になった改正案が、なぜ再び審議されるのか。「廃案に」との声が各地で上がる。AERA 2023年5月15日号から。

【図】主要7カ国の難民認定率はこちら

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「帰れば、捕まるか殺されるかもしれません」

 埼玉県南部の川口市。この街で、家族5人で暮らすクルド人の若者(21)は不安を口にする。

「国を持たない世界最大の民族」と呼ばれるクルド人。トルコやシリアなど中東地域に暮らすが、少数民族として長く差別と弾圧を受けてきた。

 トルコで生まれ育った若者も、さまざまな差別を受けてきた。身体にはナイフの切り傷が残るが、街中を歩いていて突然、トルコ人から切り付けられた痕だという。迫害を逃れ、12年前に先に父親が来日し、3年後に母親やきょうだいと後を追った。

■4千人超帰るに帰れず

 家族は全員、一時的に入管への収容を解かれた「仮放免」の状態だ。在留資格がないので、働くことも入管の許可なく県外に出ることもできない。健康保険にも入れず、治療費は全額自己負担。生活保護などの社会保障も利用することができない。日本で在留資格を持って働いている親戚から借金などをして何とか生活している。

 若者は「難民」として認めてもらい、仕事をして普通の生活をしたいと望む。だが、難民申請すれば強制送還される心配があるので、していないという。

「(難民申請)したいけど、怖いです」(若者)

 出入国管理及び難民認定法(入管法)改正案の審議が4月13日、国会で始まった。最大の狙いは、「3回以上の難民申請者の送還を原則可能にする」ことだ。現行法には、難民保護の観点から「難民認定の申請中は強制送還しない」という規定がある。だが、何度も繰り返される難民申請は送還逃れの「乱用」だとし、3回目以降の難民申請を認めず申請中でも送還が可能になる。政府は、「在留が認められない外国人を速やかに退去させ、入管施設での長期収容をなくすのが目的」と説明する。

 だが、入管問題の改善に取り組む指宿(いぶすき)昭一弁護士は、改正案は「人を殺してしまう法律だ」と厳しく非難する。

 在留資格を持たず日本で暮らす「非正規滞在者」は約7万人(今年1月時点)いるが、退去を命じる「退去強制令書」が出れば、約95%は退去に応じ帰国している。残り約5%が、国に帰れば迫害を受けたり家族が分離したりするなど、帰るに帰れない人たちだ。昨年末時点で4233人いて、出入国在留管理庁は「送還忌避者」と呼ぶ。現在、入管施設に収容されているか仮放免の状態にある。

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