毎月読み切れない量の新刊が書店に並び、数年前の本が絶版になっていることも少なくない。そんな中、1996年に出た本がインターネットで話題になり、新装版として再刊された。それが、この『亡命ロシア料理』だ。
 タイトルでわかるとおり、この本は当たり前にロシア料理を紹介した本ではない。著者は二人とも70年代にアメリカに移住し、亡命ロシア人向けの新聞や雑誌の編集に携わっていた。国を追われたわけではないようだが、故郷への愛憎は残る。そのアンビバレンツな感情をロシア風のジョークに包みながら、故郷の料理を大まかなレシピとともに紹介している。
 たとえば、「壺こそ伝統の守り手」という章では、「すべてのロシア料理は壺から生まれた」と高らかに宣言する。壺を使って調理すると、肉や魚がどれだけ柔らかく、香ばしくなるかを熱心に語ったあと、アメリカでは、アフリカやカリブ諸島の住民のための店でしか壺が手に入らないと記す。異国で故郷の料理をつくる苦労と楽しみを読むと、少し異文化が近づいた気がする。料理を通した文明批評としても読める本である。

週刊朝日 2015年2月27日号

[AERA最新号はこちら]