湯川遥菜さんと後藤健二さん、ふたりの邦人を人質にした「イスラム国」とはどんな組織なんだろう。ニュースの行方を固唾をのんで見守りながら、怒りと疑問をつのらせた方も多かったにちがいない。
 で、国枝昌樹『イスラム国の正体』。このタイミングを計ったように1月末までに続々と発売された「イスラム国」本の中の一冊である。
「イスラム国」はアルカーイダ系のグループから分派し、イラクとシリアの反体制過激派のひとつとして2011年から政府軍を相手に武力闘争を継続してきた。14年になって一気に支配地域を拡大し、6月29日には「国」を宣言。他の組織と異なるのは〈(1)「国」を名乗り、領土を主張し、行政を敷いていること/(2)インターネット上で効果的にメッセージを発信していること/(3)欧米人を含む外国人の参加が多いこと〉。ここまでは基礎情報といえるだろう。
 しかし私たちの疑問は、なぜ彼らは人質の首を切るなどの残虐な方法を用いるのか。そしてまた、なぜそんな組織に世界中の若者たちが親和性を感じて集まるのかだ。
「人間とは思えない所業」と考えると思考停止に陥る。残虐性について著者はいうのだ。〈日本でも15~16世紀の戦国時代、武士たちは敵の首を切り、主人の前にさしだして褒美をくださいといっていたわけです〉と。〈わたしは、15~16世紀のメンタリティーの日本人が、21世紀の科学技術をもったらどうなるかと想像してみます。それがいまのイスラム国の姿なのでしょう〉
 7世紀に書かれたコーランを字義通りに適用する「イスラム国」。その「青臭さ」が疎外された若者たちを引きつけ、3万~3万5千人の戦闘員のうちの1万5千人以上は外国人といわれる。背景にはイラク戦争後の政治的空白、「アラブの春」後の混乱など、先進国の介入があることも忘れてはいけないだろう。
 相手は近代的な合理主義が通用しない中世の武装集団だった! 中東情勢はかくも複雑なのである。

週刊朝日 2015年2月20日号

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