山藤章二『ブラック・アングル』傑作選が最終号まで巻末に復活
山藤章二『ブラック・アングル』傑作選が最終号まで巻末に復活

 それが見開き頁からあふれ出ていたのが、山藤章二さんの『似顔絵塾』である。

■休刊に向けてのカウントダウン

 1990回にも及んだ長期連載で、山藤さんは毎号の掲載作を選んできた。投稿のパワーをまともに浴びつづけながらも、選考結果や選評の文言以上に雄弁で、説得力があったのは、『似顔絵塾』のあとに控える『ブラック・アングル』だった。

 絵の技巧は言わずもがな、「毒」も「愛」も、さすがにケタが一つも二つも違う。門弟たちに四方から襲いかからせた武道の達人が、瞬時に全員を打ち負かし、涼しい顔をしているようなものだ。

 そんな2本の連載が、2021(令和3)年の暮れに同時に終わった。

 休刊に向けての、数字のないカウントダウンは、そのときから始まっていたのかもしれない。

『ブラック・アングル』の最終回で、山藤さんはおなじみの手書き文字で、こう書いていた。

<宿場に栄枯盛衰があるように、街道にもあった。地味な小道に「是より江戸まで××里」とみちしるべの小さな石柱がところどころにある>

 これはあくまでも山藤さん自身が東海道を歩いた実際の旅の思い出で、執筆時点ではまだ休刊は発表されていない。

 だが、いまこの一節を読むと、寂れた街道をさまざまに喩えたくなる。

 僕の短い連載は、<みちしるべの小さな石柱>をたどる旅だった。草が生い茂り、轍が薄れるなか、苔むした石柱に刻まれた「次号につづく」が、もうじき読み取れなくなってしまう寂しさを噛みしめる旅でもあった。

 ……こんな暗い終わり方、ちょっとイヤだな。

 いまこそ『読者パロディ』の出番なのに。

『蛍の光』の歌詞を元ネタにした作品を、空の上の丸谷才一と井上ひさしが待っている……いや、『ひょっこりひょうたん島』で<泣くのはいやだ/笑っちゃお>と書いた井上ひさしなら、自ら筆を執って、不謹慎で笑えるやつを書いているかも。

 実際、『読者パロディ』の第1回のとき、2氏は読者と同じ『読書子に寄す』を元ネタにした作品を書き、「プロ」のスゴみを見せつけている。

野坂昭如も本誌との関わりが深かった
野坂昭如も本誌との関わりが深かった

 さらに2氏は、パロディ好きの作家・野坂昭如に声をかけ、野坂も快諾。「新型便器の発売に際して」という、いかにも“らしい”設定で作品を披露した。

 元ネタの<真理は万人によって求められることを自ら欲し、芸術は万人によって愛されることを自ら望む。かつては民を愚昧ならしめるために学芸が最も狭き堂宇に閉鎖されたことがあった>が、野坂の筆にかかると──。

<雲古(うんこ)は時を選ばず排泄されることを自ら欲し、悉呼(しっこ)また場所にかかわらず放たれることを自ら望む。かつて便意を管理せしめるために、排泄は最も狭き便堂に封じられたことがあった>

 笑ってサヨナラ、「週刊朝日」──。

週刊朝日  2023年5月26日号