「毎日、値段を確認せんと、自分の相場感がずれてくる。1日休んだだけでも、前日の値段がわからんなるき休めん。そうやって積み重ねて初めて見えてくるもんがあるがよ。それに毎日通う中でこそ、いいものを見極める目も養われるきね」(松沢さん)
店先には、旬の野菜や果物がずらり。4月はいちごや文旦、山菜類などが店先にひしめいていたが、今は初夏に旬を迎える柑橘・小夏の最盛期だ。朝10時から昼2時ごろまで、妻と二人で店を切り盛りする。全国に客を持つが、長い客は20年以上の付き合いだ。
「ちゃんとうまいのを選んで売ったら、また次につながって、なじみになってくれる。そうやって店の信用ができていく。信用を得るには、しっかりした物を扱わないかん」
瞳の奥をキラッとさせながら、楽しそうに語ってくれる松沢さんだが、好物の酒の話になると、さらに饒舌になる。
「休みやったら朝から酒ばっかり飲んで座りゆうき、店を開けちょき」と周囲から言われ、元日だけが休みという営業スタイルに落ち着いたとは本人談。新型コロナウイルスが広がる前までは、毎晩家で熱燗を5合飲んでから近所のスナックに飲みに行くのがお決まりのコース。外で酒を飲めなくなったコロナ禍を“酒量を減らす良いチャンス”だと捉え、今は毎晩の熱燗を3合にまで減らした。飲み方も、コップ酒でグイグイ飲むスタイルから、お猪口でちびちび飲むスタイルに変化した。
「体の不調もなく元気なのは、毎晩の“アルコール消毒”のおかげやね」(同)
魚を食べない日はないというのは、松沢さんも同様。いい魚が入ったら、市場の魚屋から声がかかる。今の時期は毎日、カツオ三昧。その日の鮮度や気分によって、刺し身で食べたり、タタキにしたりと“地の魚”を存分に楽しむ。
「ここの空気とか人の感じ、全てが自分に合う。真面目な話、本当の健康の秘訣は、“水が合う場所におること”やと思う。それに店を通じて、いろんな人との出会いがあるき、毎日退屈せん。このまま80歳までは続けたい」(同)