■好奇心なくさず瞬間の積み重ね
藤:楽しいだけではないですけどね。自分ではない人物に無理やり入っていくわけだから。
山口:人間に対する興味があると、想像力をたくましくして入れます。
藤:そうですね。念ずると役も近づいてくれる。「念ずる」という言い方はおかしいけれど、必死になるということかな。僕は好きなタイプの役はないんですが、キャラクターが台本の中でどう生きているかは重要。やっぱり本、ですね。
山口:私はいくら役でも暴力が苦手です。今回もスティックでみんなのお尻をたたくシーンは何回もNGになりました。
藤:僕はオカルト映画が怖くてダメです。
──齢70、80を超えて思うこととは。
山口:私はずっと、どちらかと言うと映像より舞台をやりたかったんです。今はお声がかかればどちらでも。お役に立つのだったら出ようかなという心境になってきました。これは若い時にはなかったかもしれません。これからの人生はデクレッシェンド、看板は下ろさないけどスッと消えていきたいという希望があるの。それが夢です。
藤:僕はアクション映画に随分出演してきましたので、実際に亡くなった方も見てきました。若い時分は妻(芦川いづみ)に敬礼して家を出ました。もう二度と帰れないかもしれないから。一本撮り終わるまで生きていればいいという刹那的な、その瞬間の積み重ねです。それは今も同じですね。
山口:この映画は「人生には遅すぎることなんて一つもない」と謳っていますが、私にとってはまさに、この映画に出ることがそうでした。サミュエル・ウルマンという米国の詩人に、「青春」という詩があります。好奇心や挑戦する勇気、探究心や興味といったものがあり続ければ若い。老いはそういう心のありようを失った時に始まると。この詩も挑戦を後押ししてくれました。
藤:僕も人間は好奇心をなくしてしまったらダメだと思います。僕は毎日料理をしますが、今、ベーコンを作り始めたんです。妻が好きなんですよ。
山口:私は足が痛くなってからリハビリを兼ねて毎日散歩をしています。今日も8千歩は歩いています。何でも挑戦ですね!
(構成/ライター・坂口さゆり)
※週刊朝日 2023年5月19日号