家が裕福で成人しても両親から月々20万円の生活費をもらっているケイコさんは、生活の心配がまったくない。週末は着付けやネイル、バレエを習い、29歳になるまでに結婚しようと考えていた。

「会社勤めは好きになれないので結婚して子育てが終わったら、趣味のネイルを勉強してネイルの店をやりたい。逆算すると27歳で出産するとちょうどいい。出会いのチャンスが少ないので試しにアプリに登録してみた。母に賛成されない結婚は難しいので、相手を医者だけに絞っている。でも結局決めきれなくて」

 アプリでは医者に「いいね!」が200、300近くつくことも珍しくないし、競争率はかなり高い。しかしケイコさんは若い上に芸能事務所にも何度かスカウトされたぐらい容姿端麗で、8割の確率でマッチングできたという。

 そこからはランキング制で淘汰していった。

 年収が2000万円以上、住所が港区か渋谷区、世田谷区、内科医、出身大学……。条件をクリアした相手とはレストランで会い、性格や将来性を見極める。

「3人ぐらいに絞りたいので、今度のお誕生日を覚えていてくれて、ちゃんとお店を予約して祝ってくれた人を残す。いくら医者でも家事と子育てだけやってくれればいい、みたいな人では一緒にいるのが苦痛だし。それにネイルサロンにも賛成してくれる人がいいので、余裕のある10歳ぐらい年上の方がいいかも」

 アプリのコミュニティではコンサバな年下好きの嗜癖コミュが目立つ。「男性が10歳以上年上でもOKな人」「年上男性と年下女性の組み合わせが好きな人」「ついてきてくれるタイプが好き」……。特に医者や弁護士、経営者など社会的地位が高いとみなされる職業の人々は、「自慢できる10歳以上年下の美人妻がいい」というトロフィーワイフ信仰が根強い。

 だからケイコさんのような富裕層狙いは、最初にフィルターで候補を数人に絞るほうが、結婚には早道だ。白金住まい、ネイル店を出すことなどへの理解は付き合ってから確認すればいい。

 すでにアプリ登録から2年が経過した。ケイコさんは自分がマッチング依存症の泥沼にはまっている自覚はないが、いつの間にか朝起きた時と寝る前にアプリチェックするのがルーティンになってしまったという。

「何人かと付き合ったが、理想通りの人はまだいない。30歳になったら条件を緩和すべきか、今から悩んでいる」

●速水由紀子(はやみ・ゆきこ)
大学卒業後、新聞社記者を経てフリー・ジャーナリストとなる。「AERA」他紙誌での取材・執筆活動等で活躍。女性や若者の意識、家族、セクシャリティ、少年少女犯罪などをテーマとする。映像世界にも造詣が深い。著書に『あなたはもう幻想の女しか抱けない』(筑摩書房)『家族卒業』(朝日文庫)『働く私に究極の花道はあるか?』(小学館)『恋愛できない男たち』(大和書房)『ワン婚─犬を飼うように、男と暮らしたい』(メタローグ)『「つながり」という危ない快楽─格差のドアが閉じていく』(筑摩書房)、共著に『サイファ覚醒せよ!─世界の新解読バイブル』(筑摩書房)『不純異性交遊マニュアル』(筑摩書房)などがある。

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