トヨタには「視える化」という有名な企業文化があり、こうした明文化もその具体例です。

 トヨタの強さの源泉の1つが「言語化」力であるという点だけは、ここでも強調しておきたいと思います。

 加えて、ミッションやビジョンを達成するために、あるいは理念や規範を体現するために、トヨタでは1年ごとに「年度方針」が策定されています。

 ただ、時間軸としては「年度」方針ですが、空間軸に重きを置けば、これは「全社」方針と言い換えることも可能です。

 なぜこう言い換えたのかというと、「全社」としての方針ができあがり次第、今度はそれが「部門」方針、「部」方針、「室」方針、「グループ」方針というように細分化、ブレイクダウンされていくからです。

 各トヨタパーソンは上部方針を一通り確認しつつ、最終的には自分の業務の方針を「紙1枚」に書き出してまとめていきます。

 これが最も具体的で、自身の仕事に直結する「目的=何のために働くか?」の方針です。全ての仕事は、自らの言葉で言語化したこの方針を達成するために行い、方針に沿って働くことが、最終的には全社方針や企業理念、フィロソフィーといったものともつながっていく。

 逆もまた真なりで、そうした上位方針や明文化された組織文化との「つながりを実感して働ける」からこそ、ブレずに、主体的に、当事者意識を発揮して日々業務を遂行していけるようになるのです。

 以上、トヨタのマネジメント手法の1つである「方針管理」の一端をご紹介しました。

 英語では「Hoshin-Kanri」とそのまま表記され、世界中のトヨタで実践されています。あなたの会社には、似たような仕組みがあるでしょうか。

●浅田すぐる(あさだ・すぐる)
「1枚」ワークス株式会社代表取締役。「1枚」アカデミアプリンシパル。動画学習コミュニティ「イチラボ」主宰。作家・社会人教育のプロフェッショナル。名古屋市出身。旭丘高校、立命館大学卒。在学時はカナダ・ブリティッシュ・コロンビア大学留学。トヨタ自動車(株)入社後、海外営業部門に従事。同社の「紙1枚」仕事術を修得・実践。米国勤務などを経験したのち、(株)グロービスへの転職を経て、2012年に独立。現在は社会人教育のフィールドで、ビジネスパーソンの学習を支援。著書に『トヨタで学んだ「紙1枚!」にまとめる技術』(サンマーク出版)、『早く読めて、忘れない、思考力が深まる 「紙1枚! 」読書法』(SBクリエイティブ) などがある。