1940年代の映画「ガス燈」(もともとは舞台だった)から由来し、相手の現実感覚を狂わせ、自身の感覚を信じられない状況に陥らせることを「ガスライティング」と言うが、まさに性差別社会というのは、男の自分語りの世界に女たちが取り込まれて現実感覚を失っている状態のことなのかもしれない。一対一の関係だけではなく、この社会が壮大なガスライティング装置のように。
先日、ジェンダーギャップ指数のランキングが発表され、日本は過去最低の125位だった。「ジェンダーギャップ」というカタカナだと重みはないが、フツーに男女不平等指数である。しかも数年前であれば「日本は韓国よりも低い!」とか、そういう声が話題になったものだが(韓国は今年105位でした)、今回のこの125位はあまり騒がれておらず、むしろこの最低感が日常になっているようにも感じる。
また少し前に、日本を含む29カ国の共同研究による衝撃的な結果が公表された。男女の不平等が大きいほど、右大脳半球の大脳皮質が女性のほうが薄くなってしまうというのだ。その領域のうち、右前部帯状回尾側と右眼窩前頭回が薄くなるのはうつ病の患者に、体積の低下はPTSDの患者に見られるもので、「困難に耐え忍んでいるときや、不公平な状況において他人と自分を比べているときに活動する」部分だと報告されているという。……怖いです。ちなみに男女平等の社会では、女性のほうが右前部帯状回尾側の大脳皮質が厚いということも、研究発表の中にはあった。
やっぱりおかしな社会だ。
ガス燈の下、もやのかかった視界の悪い世界を、不確かな気分で生きる。それはもう負傷兵レベルである。自信がなく、未来は不安で、心は萎縮し、逃げ場などはもうないような気持ちになっている。そしてその不安は時に、私たちを間違えさせるのかもしれない。ガスライティング状態で壊れてしまう女たちの姿を、毎日のように私たちは目撃している。たとえば、これは数分前にSNSで見たものだが、「風俗に行く夫」について語り合っている女性たちの会話が流れてきた。彼女たちは「男というものはおつきあいで風俗に行く」という前提で、そのことを「不倫されるよりマシ」「夫が風俗でどんなセックスをしてきたか教えてくるが笑える」「それこそが妻の余裕」「キレイなお姉さんの話をする夫がカワイイ」などと語り合う30~40代の女性たちである。