前出の2件は石崎弁護士が関わった案件だが、理解不能な親からのクレームは他にもある。

 飲食店のバイトになり、寮費をまとめて前借りする形で従業員寮に入った少年。だが、しばらくすると「仕事がきつい」と言って職場に来なくなり、寮からもいなくなり音信不通になった。すると、母親が弁護士とともにやってきて「未払い賃金を払ってほしい」と要求してきた。

「未払い賃金はありませんでした。そればかりか、この少年は前借りした寮費の返済が終わっていなかったので、結局、母親が未返済の寮費を支払う形で決着しました。そもそも、入寮時に母親と少年と会社の3者で、寮費をいくら前借りしてどのように返済するか合意して、そのやり取りをしたメールも残っているのに、なぜ未払い賃金を払えという話になるのか、私も店側も理解できませんでした」と石崎弁護士は首をかしげる。

 親子関係の変化は、これまでもたびたび取り上げられてきた。

 入社式に親が同席したり、内定者の親に会社案内をしたり、婚活を親が代行するといったイベントも話題となった。

「2000年代に入ってから、徐々に親子関係に変化が表れ始めたと感じています。昔は大学の入学式に親が来るなんて恥ずかしくて嫌だ、という学生が大半でした。ところが近年は入学・卒業式だけではなく入試でも父母用の控室を用意する学校も出てきていますからね」と話すのは、親子関係の問題に詳しい中央大学の山田昌弘教授(家族社会学)。

「いい意味で子供を放っておいた昔と違い、今は親が子供にかけるエネルギーやお金が格段に増えています。『なぜうちの子が』『なぜこんなつらい目に』という心境になりやすいのでしょう」

 山田教授は、いわゆる自殺者を出すようなブラック企業や、学校や職場でのいじめの問題を引き合いに、「親の介入や助けが必要なときもあり、親が出てくることを一概に否定しようとは思いません。特に命や精神疾患が関わる事態には、親が唯一の味方という場合もあります」と話す。ただ、その山田教授自身も、ここ最近、面食らった出来事があった。

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学生の親から「なぜこんなに評価が低いのか」と大学にクレーム