国民病ともいわれる花粉症。政府は対策の全体像を取りまとめ、「骨太の方針」にも「政府一体となって取り組む」方針を盛り込んだ。実現の見込みはあるのか。AERA 2023年7月3日号より紹介する。
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発端は4月3日の参院決算委員会。自民党議員に花粉症対策を促された岸田文雄首相はこう答弁し、並々ならぬ意欲を示した。
「花粉症はもはやわが国の社会問題。結果を出したい」
そして5月30日の関係閣僚会議で示されたのが、「発生源対策」「飛散対策」「発症・曝露対策」の3本柱からなる花粉症対策の全体像だ。この間、2カ月足らず。「急ごしらえ」の感は否めない。だが毎年、花粉症に悩まされる身にとっては「ハリボテ」でも「棚ぼた」でも、政府が本気で花粉症対策に取り組むというのであれば期待せずにはいられない。
目を引くのが、発生源対策に掲げる「10年後にスギ人工林を約2割減少させ、30年後には花粉の発生量の半減を目指す」方針だ。このため10年後に、花粉の少ないスギ苗木の生産割合を現在の約5割から9割以上に引き上げるという。
林業関係者はどう受け止めたのか。
「このままでは絵に描いた餅になる」と話すのは江戸時代から続く三重県の林業家、速水亨さん(70)だ。速水さんは今回の花粉症対策を成功させるカギは、花粉の少ない苗木をどれだけ安価に、多く供給できるかだと唱える。ただ、人工林伐採に伴う苗木の植樹は品種にかかわらず、進んでいないのが実情という。なぜか。「木材価格の低迷が続き、森林所有者に伐った跡地に植林するモチベーションが湧かないからです」(速水さん)
■補助金システムの弊害
価格低迷の要因の一つに、速水さんは間伐をめぐる国の補助金システムを挙げる。
間伐による森林の適正管理を推進し地球温暖化防止につなげようと、2008年に「森林の間伐等の実施の促進に関する特別措置法」が成立した。これに基づき、間伐などを計画的に進める自治体に国が交付金を支給する制度が整備された。この制度によって補助金を受け取るのは、森林所有者から委託を受け、間伐や下刈りなどの作業に従事する森林組合などだ。速水さんが言う。