「木材需要に関係なく、間伐すればするほど作業従事者に補助金が回る仕組みになっていますから、間伐された木材が市場にだぶつき価格が低迷するのは必然でした」
木材価格低迷のあおりを受けるのは森林所有者だ。かつては木材の製品価格の約2割を占めていた森林所有者の利益は、今は10分の1程度まで激減しているという。
「資金を出して再び木を植えよう、という判断は森林所有者に帰属します。しかし、市場にこれ以上、木材を流通させても利益が見込めないため、森林所有者は伐採後の山をそのまま放置するようになっています」(同)
■「皆伐」で土砂崩れも
一方、06年度以降、独自の花粉症対策を実施している東京都も、今回の政府方針には困惑気味だ。「今後国から都道府県に何が課せられるのか心配しているところ」(都森林課)と言う。林業は人手不足や高齢化などの課題に加え、「空き家問題」にも似た相続にまつわるトラブルも起きている。相続などによって自分の山に関心が薄い森林所有者に変わると、境界が引き継がれずあいまいになるケースや、相続登記すらされずに所有者の確認が困難な山林もあるという。
「森林の所有者や境界が分からないと、森林を伐採することができないため花粉発生源対策も進みません」(同)
近年、生産性を上げるため一定の範囲にある木を一度に全て伐採する「皆伐」が広がり、その跡地が大規模な土砂崩れを起こすケースも報告されている。
「皆伐が進んだ背景には、戦後に植林された木が成熟したとしてこの10年余り、国が政策的に後押ししたことが挙げられます」
こう解説するのは三菱UFJリサーチ&コンサルティングの淺田陽子主任研究員だ。
皆伐の結果、森林再生が困難なエリアも増えているという。要因の一つがシカによる苗木の食害だ。
「広大なエリアを一斉に伐採すると、そこに苗木を植えてもシカのエサ場になるため、苗木が育たないケースが各地で相次いでいます」(淺田さん)
林野庁はシカが嫌がる忌避剤の散布や苗木の保護、防護柵の設置など対策の普及に努めているが、シカの生息範囲が広がる中、効果は限定的という。
「食害対策はコストもかかるため効果的な解決策は見つかっていないのが実情です」(同)
間伐、皆伐の両方が進んだ結果、木材市場はさらにだぶつき、各地で苗木の植え替えが進まない負のループが続いている、というわけだ。そうした中、10年後にスギの人工林を2割減らす、という今回の花粉症対策は何をもたらすのか。