安倍支持者側は、「安倍晋三氏に対しては、特定のマスコミや『有識者』といわれる人々が、テロ教唆と言われても仕方ないような言動、報道を繰り返し、暗殺されても仕方ないという空気をつくりだしたことが事件を引き起こしたのであって、犯人が左派でも右派でも、個人的な恨みをもった人でも、精神に障害を抱えた人でもそれが許されると思わせた人たちが責められるべきである」などと、実際に起きた安倍元首相殺害という刑事事件に関する「事実」を無視して、「安倍批判」が安倍氏殺害事件の原因であるかのように決めつけていた(《安倍狙撃事件の犯人は『反アベ無罪』を煽った空気だ》八幡和郎氏)。フジテレビ上席解説委員の平井文夫氏も、それに同調する記事を書くなど、「反安倍」批判を行っていた(《安倍晋三さんを死なせたのは誰だ》FNNプライムオンライン)。

 しかし、山上容疑者については、その後、元海上自衛隊員であることが明らかになり、彼の膨大な量のツイッター投稿の内容から、思想的には、嫌韓、歴史修正主義、排外主義で、ネット右派、いわゆるネトウヨの考え方に近いことがわかった。

 銃撃事件直後に八幡氏、平井氏などが主張していた、「反安倍に煽られた事件」などという見方は、全く客観的事実に反するものだった。

■横行する“憶測”や“決めつけ”

 2019年7月の参議院選挙期間中に、札幌市内の街頭演説において、安倍首相の演説に対して路上等から声を上げた市民らに対し、北海道警察の警察官らが肩や腕などを掴んで移動させたり長時間にわたって追従したりした問題について、警察官らによる行為は違法だとして市民らの国家賠償請求の一部を認容した判決が札幌地裁で出されていた。それが、本件で安倍元首相の演説の際の警護の支障になったかのような見方もあった。

 しかし、「声を上げて批判すること」と「物理的に抹殺しようとすること」とは全く異なる。この二つを混同するような論調は、民主主義に対する重大な脅威になりかねない。

暮らしとモノ班 for promotion
Amazonプライム感謝祭。10月17日からの先行セールで「ダイソン・ルンバ」を手に入れよう!
次のページ
「安倍支持」「反安倍」のそれぞれの議論の極端化