2022年7月8日、安倍晋三元首相が参議院選挙の応援演説中に銃弾にたおれて、1年近くが経った。だが、安倍氏が残した強権的な政治手法の影響は今も残る。第二次安倍政権の発足以降、菅政権、そして岸田政権へと継承された約10年で、日本の政治はとかく「単純化」が進んだ。朝日新書『「単純化」という病 安倍政治が日本に残したもの』では、問題の本質を見ず、空回りを続ける日本の病を“物言う弁護士”郷原信郎氏が指摘している。安倍氏が亡くなった後も色濃く残る「政治の病」とは何か。その背景を同著から一部を抜粋、再編集し、紹介する。
【写真】「森友問題」で圧倒的に多い“虚偽答弁”をしたのはこの人
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■安倍氏銃撃事件と統一教会問題
安倍氏の首相在任期間の最後の頃に表面化し、野党・マスコミの追及を受けた桜を見る会問題は、安倍支持者からは、「モリ・カケ・サクラ」と一括りにして、些末な問題であるように扱われた。内閣総理大臣の国会での「虚偽答弁」は、議院内閣制の下で、国会の信認を前提に成立している内閣にとって致命的で、まさに、第二次安倍政権の評価そのものに関わる問題だった。
安倍氏は、当初から虚偽であることが明らかだと思える説明、虚偽答弁を繰り返し、2020年8月末に首相を辞任した後、検察捜査で明らかになった事実から、首相として国会で118回もウソの答弁をしていたことが否定できなくなり、答弁の訂正に追い込まれる事態となった。
そして、2020年12月25日の衆参両院の議院運営委員会が、答弁訂正の説明の場として設定されたものの、そこでも、国会での虚偽答弁の際の認識などについて明らかにウソの説明をした。安倍氏の国会での最後の発言となったのは、虚偽答弁についての「ウソの説明」だった。
それにもかかわらず、その重大性が認識されることはなく、この問題は収束し、少なくとも、元首相としての安倍氏の政治的地位に影響することは殆(ほとん)どなかった。安倍氏は、自民党内の最大派閥「安倍派」の会長となり、自民党内において強大な政治権力を保持し続けた。
そして、2022年7月8日、安倍氏は、奈良市内で参議院選挙の応援演説中に、旧統一教会(現・世界平和統一家庭連合)に恨みを持つ山上徹也に、自作銃で銃撃されて亡くなった。