安倍氏のこのような行動には、第二次安倍政権の間に、森友学園問題、加計学園問題、桜を見る会問題と、安倍氏自身が追及される問題が表面化し、野党・マスコミからの追及が続いたものの、結局、常に「強気」で押し通した結果、実質的に問題なく収束することができたという「成功体験」が影響しているように思える。

 結局、「モリ・カケ・サクラ」問題を経て、安倍氏やその周辺に残ったのは、選挙で勝利しさえすれば、どんな問題でも乗り切れる、そして、それが政治的にも有利に働く、という「経験知」だった。

 旧統一教会の関連団体のイベントへのリモート登壇を行ったことが、全国弁連や旧統一教会の被害者等から何らかの反発を招いたとしても、桜を見る会問題での「虚偽答弁」問題ですら、さしたる苦労もなく乗り切ったのであるから、それ程大きな問題にはならないと高をくくっていたのかもしれない。

 安倍氏が、UPFのイベントにリモート登壇することを教団側に伝えたのは、2021年8月末だったとされている(前掲鈴木、279頁)。その頃は、安倍政権を継承した菅政権の支持率が、コロナ感染対策やコロナ禍での東京五輪開催の是非の問題等で急低下し、自民党総裁の任期切れを9月に、衆議院の任期満了を10月に控え、岸田文雄氏の総裁選への出馬表明もあって、政局が一気に緊迫化していた時期だった。総裁選と衆院選が目前に迫っている時期だっただけに、安倍氏には、それまで以上に旧統一教会との関係を深め、選挙での応援を強力なものにしてもらおうという思惑もあったのかもしれない。

 結局、選挙にさえ勝てば、「モリ・カケ・サクラ」を乗り切ってきたやり方で、すべての問題を乗り越えることができるという「過信」が、旧統一教会の関連団体の国際イベントにリモート登壇して、韓鶴子総裁を礼賛するという行為に対する抵抗感を希薄化させていたのではなかろうか。

 そのように、安倍元首相ら自民党議員が旧統一教会との関わりを深めることに対して、教団への多額の献金で経済的に困窮し、家庭が崩壊し、人生が破壊された信者、元信者、その家族、信者二世などの「怨念」が高まっていった。安倍氏の行為に対しても強烈な反感・憎悪が生じるのは当然だった。

●郷原信郎(ごうはら・のぶお)
1955年生まれ。弁護士(郷原総合コンプライアンス法律事務所代表)。東京大学理学部卒業後、民間会社を経て、1983年検事任官。東京地検、長崎地検次席検事、法務総合研究所総括研究官等を経て、2006年退官。「法令遵守」からの脱却、「社会的要請への適応」としてのコンプライアンスの視点から、様々な分野の問題に斬り込む。名城大学教授・コンプライアンス研究センター長、総務省顧問・コンプライアンス室長、関西大学特任教授、横浜市コンプライアンス顧問などを歴任。近著に『“歪んだ法"に壊される日本 事件・事故の裏側にある「闇」』(KADOKAWA)がある。

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