――日本のアマチュア球界も見習うべき点がありますね。
学童では球数制限もそうですが、投手がもう少し有利になるような形で野球を楽しむ必要性は感じます。例えば、試合で盗塁の数を1試合で3~5個に制限するのも一つの案だと思います。捕手の肩が弱いからといって無制限に走りまくるのはいかがかと思います。投手はランナーが走ることを警戒してストライクが入らなくなり、フォームも悪くなる。捕手から二塁への送球も投手が1球投げる1.5~2倍の負担が肘に掛かっています。盗塁を無制限にされると、捕手も壊れてしまう。子供が投手と捕手を1試合で兼任する起用法も、ケガを予防するために考慮するべきだと思います。ルールは選手だけでなく、選手の体を気遣う監督の指導方法も守れます。球数制限がなかったら、継投策が裏目に出た時に「なんで代えたんだ」と保護者や関係者などから文句を言われますが、70球の球数制限がルール化されれば正々堂々と子供の障害予防のために投手を交代することができます。
――子供をケガから守る意識を強く持たなければいけませんね。
そうですね。ただ、指導者のケガに対しての理解が深まり、近年は特に意識が変わってきています。例えば一昔前は、水を飲まない、うさぎ跳びで下半身を鍛えるのが当たり前の時代でした。今は熱中症を防ぐためにこまめに水分補給するし、膝を悪くするのでうさぎ跳びをさせる指導者はほとんどいなくなりました。「投げ込み」に関しても5年、10年後に常識から外れた練習法だったという認識で定着することを願っています。実際にその考えは浸透してきているので、指導者の方々は乗り遅れないことを願います。例えば、NPBで常時150キロ以上の速球を投げる投手がなぜ増えているかというと、科学的な議論を積み重ねて投球フォームが良くなったり、理学療法士が身体の使い方を教えて、いい選手が育っていることが大きいと思います。投げ込みで進化しているわけではありません。
――高校までの投げ込みがたたり、プロで短命に終わる投手も少なくありません。
日米で活躍した斎藤隆さん(DeNA投手コーチ)は45歳まで現役でプレーしましたが、「小、中、高で投げなかったのが良かった」と話していました。大学から投手に転向したので肘を守れたと。靭帯は消耗品と認識した方がいいと思います。実際に高校まで登板機会に恵まれず、2番手以降だった投手がプロの世界で活躍するケースも少なくありません。投げ込まなくても投球の精度は上げられるし、日本人はその努力や工夫ができる国民性です。スポーツでも日本人より体の大きい海外の選手に対抗するには、小、中、高のカテゴリーで勝利第一に固執せず、選手をケガから守りつつ優秀な選手に育てる育成法を確立することによって、NPBやメジャーで活躍する選手が増えると思います。
(聞き手:今川秀悟)