――小学生の時期は非常に重要なのですね。
その通りです。肘へ負担を掛けることが大きなリスクであることを一番知ってほしいのは、小学生の指導者なんです。良いフォームで投げているからと言って、投げ続けてもケガをしないかと言ったらそうではない。成長期は骨が弱いし、靭帯も未熟です。大学生以上の年齢なら、体が成熟してきているので良い投げ方をしていればケガは少なくなりますが、小、中、高校生は体が未熟です。投げすぎ、投球フォームの良しあし、疲労の蓄積、スライダーなどの変化球の多投などが原因でケガをする危険性が高まります。また、球速が速すぎて体に負担がかかることもあります。
――指導者の役割が重要ですね。
故障の危険性を理解している指導者の方々は増えてきていますが、まだまだ現在も根性論がはびこっています。子供は肘が痛くても、『投げられるか?』と聞かれたら、『投げられます』と言ってしまう。チームのためにと思ったら断れない。日本には勝利のために犠牲になるのが美徳とされる文化がありますが、ケガで子供が犠牲になるのはダメです。
――投げ込みに関してはいかがでしょうか?
その試合だけで100球を投げたことで直ちにケガするというわけでないですが、小・中学生が常に100球以上投げている場合と、70球以下の時でケガのリスクが違うというのは啓発活動で伝えています。試合だけでなく、練習の投球数が多すぎたり、トーナメントで登板間隔を空けずに投げ続けるのも良くありません。選手育成の観点で考えたら、勝つことに重きを置きすぎて選手が肘を痛めたら指導者失格です。勝利から得られるモノはありますが、ケガよりも優先順位が高いかというとそうではない。子供たちにケガをさせないことが指導者の一番の役割で、その次にどうやって成長させるか。二の次、三の次で勝利がついてくる。成長期の体を壊してまで勝利を第一優先にすれば、子供たちの将来を奪ってしまいます。
――古島先生は17年冬に、野球の強豪国・ドミニカ共和国を視察し、220人の小・中学生を対象に肩ひじの検診を行っています。結果はどうでしたか?
外側の障害である離断性骨軟膏炎(OCD)の症状を発症している選手はゼロで、内側の障害である裂離骨折の症状を起こしていた選手は15%のみでした。日本国内の同世代で調査したデータでは全体の2~8%でOCDを発症しており、内側の裂離骨折は35~50%の割合で発症しています。これだけ違うのかとびっくりしました。ドミニカの指導者には、「絶対に選手にケガをさせてはいけない」という考えが浸透している。実際に現地でコーチと話したら、「勝つために投げさせてケガしたら子どもたちの一生の財産を奪うことになる」と話していました。