「境界知能」という言葉をご存じだろうか。知能指数(IQ)は85~115が「平均的」とされ、IQ69以下は知的障害とされる可能性がある。境界知能はおおむねIQ70~84に定義される。
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境界知能の人は人口の約14%とされている。物事を理解するのに時間がかかり、学習面で後れを取ることもある。コミュニケーションが苦手な傾向にあり、社会に出て適応に苦しむケースも少なくない。言動や行動は一見すると健常者と変わらないため、「やる気がない」「学ぼうとする姿勢が見られない」と誤解を受けるケースもある。
フリーのWebライターでYouTuberとしても活動するなんばさん(31)が境界知能と医師に伝えられたのは2019年。28歳の時だった。
「事務職の正社員で働いていたのですが、会社の人たちやお客さんとのコミュニケーションに悩んで自分を追い込んでしまって……。会社を辞めて病院の精神科で検査を受けたところ、うつ病、発達障害の診断を受けました。そのときに医師のススメでIQテスト(知能検査)を受けたら、IQ84の境界知能という結果が出ました。正直、少しホッとした部分もありました。長年悩み続けていたいろいろな問題はこれだったんだなと……」
公務員専門学校を出て、一般企業に正社員として入社。企画営業職を経て、事務職として5年間働いたが、「自分には能力がない」と責め続けた日々だった。同時に2つの作業をするマルチタスクが苦手なため、顧客の電話対応をする際に話を聞き取り、メモを書くという作業ができない。話を熱心に聞くとメモができず、メモを書くことに精いっぱいになると話が頭に入ってこなかった。「分からないのに分かったふりをして……お客さまからクレームがくるし、上司にも怒られる。ただどう改善すればいいのか自分には分からなかった。物事を理解したり判断したりする認知機能が低く、コミュニケーションをとるのも苦手だったので、上司だけでなく他の社員にもうまく言葉をかけられなかった」と振り返る。