4月7日、横浜・大さん橋を出航するピースボートの大型客船。家族や友人ら大勢が見送りに集まった。右後方には大型客船「飛鳥II」も停泊する(写真:ジャパングレイス提供)
4月7日、横浜・大さん橋を出航するピースボートの大型客船。家族や友人ら大勢が見送りに集まった。右後方には大型客船「飛鳥II」も停泊する(写真:ジャパングレイス提供)

 3年2カ月ぶりに世界一周クルーズが再開されるなど、コロナ禍で打撃を受けた旅行需要が回復しつつある。ゴールデンウィークの国内旅行はコロナ前の水準に戻るとの試算も出ている。AERA 2023年5月15日号の記事を紹介する。

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 集まった家族や友人の「行ってらっしゃい」に押されるように、15階建ての大型客船がゆっくりと離岸した。船のデッキからも、大きく手を振りながら「行ってきます」と返ってくる。3年間見られなかった光景だ。

 4月7日、国際交流NGOピースボートがコーディネートする「地球一周の船旅」が横浜・大さん橋を出航した。17カ国・地域を巡り、7月に帰港する。2020年に新型コロナウイルスによる混乱が始まって以降、日本発着の世界一周クルーズが出航するのは初めて。ピースボートも、20年2月の日本帰着以来3年2カ月ぶりの航海になる。この間、ピースボートはクルーズの企画と中止を繰り返してきた。主催旅行会社ジャパングレイス取締役の山本隆さんはこう振り返る。

「20年3月にすべてのクルーズがストップしたあとも、状況が好転すればすぐに再開すべく、船をチャーターして常に準備していました。ただ、手続き面でもコロナ対策でもクルーズを出港・完遂させるのが非常に難しく、自信を持って進められる状態にならなかった。毎回延期の案内をせざるを得ませんでした」

 そんな状況が長く続いたが、22年9月、政府は水際対策を緩和して国際航路の受け入れ再開準備を進めることを発表した。それを受け、11月には外国船籍クルーズ船社の業界団体が感染予防のガイドラインを作成、国内船社の業界団体もガイドラインを改訂するなど対策が整備されたことから、ピースボートクルーズも再開が可能になった。

 もちろん、新型コロナの影響が完全になくなっているわけではない。船内で感染者が出た際はゾーニングを行って隔離する。そのためのスペースも必要で、乗客定員は約2400名だが1400人程度で申し込みを打ち切った。ガイドラインに則り、船内ではマスク着用が義務付けられている。また、ピースボートは従来、比較的安価な4人相部屋に若年層が多く乗船してきたが、今回は設定できなかった。その影響もあってか、過去にも乗船経験のある参加者によると「平均年齢はだいぶ高い」という。航路にも影響が残った。当初予定していた中国・厦門は外航客船の受け入れ再開が遅れ、直前に寄港を断念している。

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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