■苦しかった3年間

 それでも、久しぶりの出航は胸に迫るものがあったという。

「わが社はほぼクルーズのみを扱う会社で、この3年は本当に苦しかった。お客様にも多大なご迷惑をおかけしました。それでも待ってくれたお客様らに支えられて何とか出航できた。久々の出航を見たときは自然と涙が出ました」(山本さん)

 札幌から参加した福島明さん・倫さん夫妻は当初、21年4月出航を予定していた。予約を入れたのはコロナ禍の前だ。20年のクルーズが中止になるなかでも「予定通り催行を目指す」と伝えられてきたが、21年1月に中止が発表された。

「今回こそは出せそうだと聞いて、振り替えを申し込みました。出なければ仕方がないと思っていたけれど、何とか出航できてよかった」(倫さん)

 最初の寄港地のフィリピン・マニラでは、ゆっくりと散策を楽しんだという。

「これまでも海外旅行はしてきたけれど、船旅は日常が移動している感じで独特。始まったばかりですが、あっという間に3カ月たちそうです」(明さん)

 今回の乗船者はこうした振り替え組が7割ほどに上るという。

クルーズ再開への期待感は大きく、先出の山本さんによるとピースボートの23年出航分は既に満席、24年分も満席に近く、いまは25年出航分の申し込みが中心だという。

 クルーズに限らず、一時は完全にストップしていた旅行需要は徐々に回復しつつある。出入国在留管理庁の速報値によると、23年3月の日本人出国者数は69万4293人。20年4月以降で最多だった2月からさらに15万人以上増えた。コロナ禍前の19年3月と比較すると3分の1程度に留まるが、昨年3月比では約10倍と文字通り「ケタ違い」に増えている。

■コロナ前と同水準に

 国内旅行はさらに堅調だ。観光庁によると、22年の国内旅行消費額は19年比約8割にまで回復した。さらに旅行大手JTBの推計では、今年のゴールデンウィーク期間(4月25日~5月5日)の国内宿泊旅行者総数は2450万人で19年比102%、総消費額もコロナ前と同水準と試算されている。航空・旅行アナリストの鳥海高太朗さんは現状についてこう話す。

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