
アジア人女性初のオスカー女優となった60歳のミシェル・ヨーは自分と同じような子どもたち、そして年齢を重ねた女性たちへ力強いエールを送った。
「1950年代には『女優は30歳を過ぎると仕事がない』、80年代には『40歳を過ぎるとない』と言われてきました。でも彼女は『年齢の縛りなんて乗り越えられるんだ!』という可能性を自ら示したんです」(渡辺さん)
「ザ・ホエール」で主演男優賞に輝いたブレンダン・フレイザーも壮絶なアップダウンを経験したカムバック組だ。90年代後半からアドベンチャー大作「ハムナプトラ」シリーズでスターとなるも、うつ病を経験し、表舞台から遠ざかっていた。目を真っ赤にして謝辞を述べる彼に会場から喝采が送られた。
■女性監督に壁?
多くの変化を感じるいっぽうで「女性監督作品のノミネートが少なかった」という疑問の声もあがっている。主要部門では作品賞・脚色賞に「ウーマン・トーキング 私たちの選択」のサラ・ポーリー監督がノミネートされたのみ。作品は実際の事件に着想を得て、教育の機会を奪われ男たちに性的暴行を受け続けてきた女性たちの決断を描いている。脚色賞を受賞したサラ監督は壇上で「ウーマンとトーキング、というタイトルなのに選んでくれてありがとう」と強烈な皮肉を放った。前出の猿渡さんも指摘する。
「特に今年は1950年代の黒人女性を描いたシノニエ・チュクウ監督の『Till(原題)』や、アフリカに実在した女性だけの軍隊を描いたジーナ・プリンス・バイスウッド監督の『The Woman King(原題)』など良作が多く、特に『The Woman King』は大ヒットしたのにノミネートされなかった。ジーナ監督によると試写で『あまり観たいと思わなかったけれど、観てみたら良かった』とよく言われたそうです。観てもらえるまでの壁がまだ存在するということです」
ただし悲観はしていない、と猿渡さんは続ける。
「#OscarsSoWhite以前のハリウッドは俳優もスタッフも圧倒的に白人の世界でした。でも以降、アメリカ映画業界は本気で多様性に取り組み、スタッフや若いインターンに女性や非白人が増えた。多様な人たちに映画を作るチャンスが生まれているんです。彼らは自分たちの物語を描き、それが多様な人々の支持を得てゆく。この流れはこの先も広がっていくと思います」
(フリーランス記者・中村千晶)
※AERA 2023年3月27日号