「女性のみなさん、もう誰にも『全盛期を過ぎた』なんて言わせないで」。アジア系として初の主演女優賞に輝いたミシェル・ヨーは、壇上で力強くそう語った。日本時間3月13日に行われた第95回米アカデミー賞授賞式はドラマに彩られていた。AERA 2023年3月27日号の記事を紹介する。
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今年の米アカデミー賞授賞式には、どこか温かな雰囲気が漂っていた。司会のジミー・キンメルはオープニングトークで「なにより僕の安全が大事です」と昨年のウィル・スミスによるビンタ事件をさらりとジョークにして笑わせ、会場は歌曲賞に輝いたインド映画「RRR」のキレッキレのダンスパフォーマンスに沸いた。
「まずは『無事に終わった!』という思いですね」
と、ロス在住の映画ジャーナリスト・猿渡由紀さんは授賞式の感想を話す。
「コロナ禍の2021年、アカデミー賞の視聴率は過去最低を記録しました。そこに昨年のビンタ事件の衝撃です。ウィル・スミス本人はもちろん、何もせずに固まってしまった主催者の映画芸術科学アカデミーも猛烈に非難されたんです。今年は危機対策を万全にし、かつ政治的なメッセージなどを意図的に排除し、あくまでも“映画の祭典”に徹しました。結果、視聴率は12%アップし、1800万人が視聴。20年の2360万人には及ばないものの、まずまず成功だったと思います」
■「エブエブ」が7冠
そして受賞結果は「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」、通称「エブエブ」の圧勝だった。作品賞ほか監督賞、脚本賞、主演女優賞、助演男優&女優賞、編集賞の7冠を達成。コインランドリーを経営する平凡なヒロインがカンフーの達人となってマルチバースで悪の手先と闘う──という奇想天外なSF×アクション×コメディーだ。LGBTQ+の要素も盛り込まれている。
「ここまで『エブエブ』一色になるとは思わなかった。アジアの風が吹いてきた、の一言につきますね」
と、映画評論家の渡辺祥子さんは話す。
「このタイプの作品がアカデミー賞にノミネートされること自体がこれまでにないこと。彼らも新しい時代を開くためのプラスになると考えたんだと思う」