「飽食の時代」と叫ばれたのも今は昔。最近は「節食」が健康には欠かせないと耳にするようになったが、本書が提唱するのはその先を行く「不食」だ。
 これまでも「人は食べなくても生きられる」を訴えてきた著者が、沖縄県の内離島で130日間に及ぶ無人島生活を決行。裸で日々を過ごし、木に登り、漂流物を漁る。時には、貝や魚を獲り、生で食す。賞味期限の幻想から解き放たれているため、「腐食」も気にかけない。「不食と言いながら食べているではないか」と指摘はあるだろうが、一日当たりの平均摂取量は小魚半分程度に過ぎない。むしろ著者の無人島生活の狙いは完全なる「不食」の徹底ではなく、「食べなくてはならない」と急かされ続ける現代社会への懐疑にある。その意識は食にとどまらず、働き方やお金の意義、幸福論にまで及ぶ。
「現代の幸福論」は古代から幾度となく議論されてきており、目新しさはない。だが、著者の場合、無人島での不食という強烈な実践体験があるからか、極論ではあるものの不思議と惹きつけられる。

週刊朝日 2014年12月12日号