いきなりで恐縮だが、私は猫が好きだ。高齢のアメリカンショートヘアを2匹飼っていて、猫に関する書籍やグッズはつい反射的に買ってしまう。書店でこの『世界で一番美しい猫の図鑑』を見かけたときも、豪華な写真集をながめるつもりですぐに手にとった。
しかし、中身はあくまでも図鑑だった。古代から現在までが五つの時代に区分され、まずは、各時代に誕生した猫種の全体的な特徴が記述されている。
たとえば、「古代から中世の血統」を取りあげた第一章を読むと、近年の遺伝子分析によってイエネコの起源が1万年前の中東とわかったことや、古代エジプトにおける猫の神格化などについて詳しく紹介。その上で、各時代に誕生した個別の猫種が、写真を添えて案内される構成になっている。
最初に登場するエジプシャンマウから最後のセレンゲティまで、その数55種。それらの猫種について簡単に理解でき、かつ他の種と比較しやすいように、「外見」「大きさ」「被毛」「性格」の4項目が、詳細な解説文の冒頭に共通して載っている。ここを読んでそれぞれの写真を見ていくだけでも十分楽しめる。
しかし、この図鑑が図鑑として優れているのは、著者のタムシン・ピッケラルによる解説文だろう。動物の進化や動物と人間の関わりの歴史を研究してきた人物とはいえ、学術面だけでなく、よくぞこれだけの猫種のこんな伝説まで調べたものだと感心する。ちなみに、ジャパニーズボブテイルの尾が短くなった理由にまつわる伝説を、私はこの本で初めて読んだ。
そして、これらの解説文を包むように掲載されているのが、アストリッド・ハリソンによる各猫種の写真だ。それぞれの特長はもとより、猫たちが放つ気品をどれもよくとらえている。
通読すれば、『THE BEAUTY OF THE CAT』なる原題を『世界で一番美しい猫の図鑑』と訳したくなる気持ちがよくわかる。
※週刊朝日 2014年11月21日号