阿子島洋介、54歳。大手総合デベロッパー、中武地所の都市開発企画部長である。大学の同期生だった妻の美晴は日本商工業団体連合会で企業会計を担当しており、長男の勝信は国立大学の医学部を出た研修医。高校を中退した次男の優樹だけが憂鬱のタネで、自身は胃痛持ち、妻は大腸の精密検査を受ける予定という屈託をかかえながらも、おおむね平穏無事な人生をおくってきた。
 そんな洋介にある朝、妻から電話が入る。おりしも彼は、出張先の大阪に向かう新幹線の中にいた。〈今ね、インターホンが鳴ったんで出てみたら、警察の人なのよ〉〈優樹にね……、覚せい剤を使った疑いがかけられているみたいなの〉。
 ええーっ! 山本譲司『螺旋階段』は、そんなエピソードからはじまる壮年のサラリーマンとその家族の物語である。〈あの馬鹿息子が〉という台詞を辛うじて呑み込み、息子の犯罪を会社に知られまいと気をもむ洋介と、覚せい剤の使用後に車を逆走させたという優樹の行動に不審を抱き、〈優樹は覚せい剤なんかやってないわ〉と主張する美晴。その矢先、今度は順風満帆だったはずの長男の勝信が自殺を図り……。
 次から次へと一家を襲う不幸がもうてんこ盛り! 夫婦のすれ違いに加え、洋介の会社が関西の大手家電メーカーの工場跡地に大型複合施設を建設する「南大阪ユートピア計画」がからみ、仕事と家庭、両方が崩壊する感覚を洋介は味わうが、一方、妻の美晴も夫には打ち明けられない重大な秘密を抱えていた。
 作者はかつての民主党衆院議員。秘書給与詐欺事件で懲役1年6カ月の一審判決を受け服役。その体験を描いたノンフィクション『獄窓記』が高く評価され、これが『覚醒』に続く2冊目の小説作品となる。
〈白々しい。何がユートピアタウンだ、何がユートピア計画だ〉とは、終盤、洋介が自身の仕事を顧みて抱く感慨。雰囲気は、そうだな、21世紀の『抱擁家族』かな。ありそうな展開に思わず引き込まれる。

週刊朝日 2014年11月21日号

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