「暮らしの小説大賞」というのがあるんだそうだ。ウェブ上の応募要項によれば、賞のコンセプトは〈生活・暮らしの基本を構成する「衣食住」のどれか一つか、もしくは複数がテーマあるいはモチーフとして含まれた小説であること〉。で、その第1回受賞作が高森美由紀『ジャパン・ディグニティ』である。
 語り手の「私」こと美也子は22歳。スーパーのレジ係である。父は津軽塗の職人だが、48もの工程があるうえ、1回塗るごとに乾燥しては凝固させる津軽塗はおそろしく手間と時間がかかる。副業にしたら、という母の提案にも〈漆塗ぁ片手間ではでぎね〉と耳を貸さぬ父。母はついにブチ切れた。〈わあ、前がらへってらったべ。漆でままは食ってげねって。もう我慢なんね、えさ帰る!〉。「え」とはすなわち実家のこと。
 こうして父母は離婚し、家には父と美也子と20歳になる弟のユウが残ったが、弟のユウは「オネエ」で〈アタシ、ママンが出てっちゃって一番悲しいのが、ママンのご飯を二度と食べられなくなるってことだったのよね〉なんて呑気な感想をもらすだけ。なんやかんやで美也子はスーパーを辞め、父の仕事を手伝うことになるのだが……。
 作者は1980年生まれ、青森県在住で、受賞作の舞台も青森だ。後半、ユウが恋人と同性婚を認めるオランダに渡り、津軽塗の修業をはじめた美也子がオランダの工芸展に塗のピアノを出品し……というあたりは出来すぎの感あれど、津軽塗と津軽弁が圧倒的な存在感を示す。
 怒ったお母さんがお父さんを責めるくだりなんて、もー最高。〈したがら、生活でぎねぐなって来たのよっ。じぇんこ(お金)ねえのよ!(略)あんだ、わんつかでもそごんどご考えだごどあんのっ。自分のごどばっかしでねくて、わんつかでも家族のごども考えでけへ〉。こういうとこだけ、ずーっと読んでいたい。
 就職先がない現実などもさりげなくすべり込ませた佳編。地方発の小説にはパワーがあるね。

週刊朝日 2014年11月7日号

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