5歳のときに父が亡くなり、母は再婚するため幼い子供たちをおいて家を出て行った。残された兄弟の絆と22歳で戦死した弟への想い──昨年亡くなった漫画家、やなせたかしさんが絵と詩で紡いだ18編の物語。
二人を引き取った伯父は実の子供同然に育ててくれたが、弟は伯父夫婦の養子となり、やなせさんは居候のような存在。父母と弟、家族にみなバツ印のついた戸籍を見たとき、自分はこの世で一人になったのだと知る。
それでも兄弟いつも一緒で、どんなときもお互いの味方。快活で優等生の弟は兄の誇りだったけれども、ふと自分の中にある小さなねたみに気づく。少年の葛藤をやなせさんは目をそらさず、切ないほどまっすぐ見つめる。
その弟は出征してフィリピン沖の海で命を絶たれた。もう永遠に心の内を伝えられない、その癒やしがたい痛みに胸がしめつけられる。
いつもと同じあたたかい絵。だがモノクロの画面には、心の奥にしまいこまれてきた寂しさと悲しみが溢れる。川辺に座る兄弟の後ろ姿は、読む人の遠い記憶を呼び覚まし、目頭が熱くなるのを止められない。
※週刊朝日 2014年10月31日号