演奏するバカラックさん(1997年11月、東京国際フォーラム/写真家・中嶌英雄氏撮影)
演奏するバカラックさん(1997年11月、東京国際フォーラム/写真家・中嶌英雄氏撮影)

 その時のサンダンスの寂しそうな表情は忘れられず、女の子って最後は逃げちゃうものなのかとも思った。

 ずいぶん後になってこの映画はアメリカン・ニューシネマの代表作と知った。

 アメリカはベトナム戦争に多くの若者を送っていたが、遥か彼方(かなた)のベトナムに送られる若者の気持ちを代弁したのがアメリカン・ニューシネマと言われる。

 公開当時、中央線沿線の立川にはアメリカ軍基地があり、街並みでも電車の中でも基地の兵士を見かけた。自由を求めるブッチとサンダンスを捕まえようと追う集団を、この作品は国家権力に重ね合わせていたのかもしれない。

「雨が降っても、幸せはやってくる」という内容の歌詞で、「雨」は戦場に降る弾丸を象徴しているのだとしたら、「いつか幸せはやってくる」と信じていた主人公二人が、何十発ものライフル銃の弾丸を受けて死んでしまう衝撃のラストシーンが今も語り継がれるのも納得できる。

 それにしても「雨にぬれても」のメロディーの甘美さといったら。バート・バカラックはこの世の切なさを音楽に美しく昇華させた唯一無二のアーティストだった。

延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー。小説現代新人賞、アジア太平洋放送連合賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞など受賞。新刊「松本隆 言葉の教室」(マガジンハウス)が好評発売中

週刊朝日  2023年3月24日号

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