TOKYO FMのラジオマン・延江浩さんが音楽とともに社会を語る、本誌連載「RADIO PA PA」。今回は映画「明日に向って撃て!」と数々の名作を生み出したバート・バカラックさんについて。
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先日、94歳で天寿を全うしたバート・バカラックは、「白い恋人たち」のフランシス・レイと並んで、小学生から中学生にかけての僕のセンチメントを育ててくれた作曲家だった。
彼の名前を知ったのはジョージ・ロイ・ヒル監督の映画「明日に向って撃て!」だった。
日本公開は1970年の2月。小学校から中学に上がる春休み、ロードショウは配給会社の株主で劇場招待券を持っていた吉祥寺の祖母と行くと決めていたから、彼女と井の頭公園の花をつけ始めた梅林を眺めながら足を運んだ記憶がある。
ポール・ニューマン扮するブッチと、ロバート・レッドフォードのサンダンスが主人公で、僕は銀行強盗も主人公になれるのだと思った。ブッチはサンダンスのガールフレンド、エッタ(キャサリン・ロス)を少しの間拝借して自転車に乗る。彼女を乗せて楽しそうに自転車を漕(こ)ぐ。
そこに流れてきたのがバート・バカラック作曲の「雨にぬれても」だった(ブッチの嬉し気な仕草に合わせるように楽しいウクレレの音色から始まる曲をB・J・トーマスが歌っているが、最近ギタリストの佐橋佳幸くんからボブ・ディランが歌っていたかもしれなかったと聞いて驚いた!)。
鑑賞後も主題歌のメロディーが頭から離れず、その足で吉祥寺の新星堂でサントラを買って(自分のお小遣いで)、家のステレオで繰り返し聴いた。
自転車の場面では雨は降っていなかったのに、なぜ雨の歌なのだろう。
♪雨粒が頭に落ちても、負けない、幸せはもうすぐやってくる♪
よーく考えて、これはブッチとサンダンスのそれからの運命を象徴していたのだと思いいたった。
強奪した金で享楽的生活を送るブッチとサンダンスだが、追っ手はどこまでも執拗(しつよう)だった。恋人エッタは、逃避行は私には耐えられないとばかりに去ってしまう。