第二次安倍政権が発足して以来、どうも気分が晴れない。なんでこんなに支持率が高いのか、ぼくにはさっぱりわからない。笠井潔と白井聡の『日本劣化論』は、そんなモヤモヤを吹き飛ばしてくれる対談だ。
 この2人の組み合わせがいい。笠井潔は『哲学者の密室』などのミステリーや『ヴァンパイヤー戦争』などファンタジーと、『テロルの現象学』などの評論で知られる。かつては新左翼党派の活動家でもあった。白井聡は『永続敗戦論』が売れ続けている若手学者で、専門は政治学と社会思想。1948年生まれの笠井と1977年生まれの白井。その年齢差は親子ほどもあるのだが、対談に世代間ギャップによる齟齬はない。笠井はちっともエラそうじゃないし、白井もペコペコしない。
 日本の保守がいかに劣化しているかに始まり、その劣化保守の対抗軸になり得ていない左派の劣化ぶり、政治家から大衆まで広く蔓延する反知性主義など、次々と俎上に載せていく。
 なぜ劣化したのか。それは近現代史をちゃんと理解していないから。「敗戦」を「終戦」と言い換えるなど、アジア太平洋戦争をまともに総括しなかったところに現代の問題の根はあるというのが白井の『永続敗戦論』だったが、二人の議論はさらに射程距離を伸ばして近現代史全般に及ぶ。しかも歴史を捉えそこなっているのは保守主義者や歴史修正主義者たちだけでなく、左派の側だって五十歩百歩だというのである。
「劣化」というけれども、読んでいくうちに、もともとダメだったんじゃん、という気分になる。昔がよかったわけじゃない。ダメでもボロが出なかったのは、幸運に幸運が重なって経済成長があったからだ。幸運が去ってボロが目立ってきた。
 さてどうするか。こうなっちゃったからには、とことん劣化を進めて行くとこまで行って、イチから出直し、やり直し、ってのがいいんじゃないかと思います。

週刊朝日 2014年8月22日号

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