楽しみながら子どもの創造力を育む『おやこで作ろう こどもお菓子部』が新潮社から出版された。<新潮社のおやこ創作シリーズ>として『おやこで作ろう こどもお花部』との同時発行になる。
この本は、手足が動く「おどるくまさんクッキー」、パウンドケーキを切って「機関車ケーキ」、おいしいお花が満開な「お花のベジタブルサラダ」、おとなをだましたい!「こどもビール」など18種類のお菓子の作り方を紹介する。それぞれのお菓子を「どうぐ」「ざいりょう」「つくりかた」で分類・説明し、グラフィカルでロマンチックな写真で展開していく。
「もしも自分が子どもだったら、あるいは子どものときにあったらよかったと思えるようなお菓子の本を作りたかったのです」という著者の福田里香さんに話を聞いた。
■図画工作の感覚がポイント
『こどもお菓子部』は、単なるお菓子作りの本に留(とど)まっていない。それぞれのお菓子には“遊び”という付加価値があるのだ。そのプラスアルファの部分が、ユニークで可愛らしく楽しい。これは、美術大学で学び、卒業後、新宿高野に勤務していた福田さんの経歴が生かされているからだ。お菓子のレシピを書く前に、まずラフスケッチを描くことから始める。掲載されている数々のイラストは、そのまま転載したものだという。
福田さんは元々、食べ物の中でも特に果物に興味があった。日本は四季がはっきりとしていて、果物もそれぞれの季節のものがある。なるべくその時季のものを食べてほしいという思いがあった。皮をむいたり、種を取ったり、切り分けたりすることは面倒かもしれない。しかし、作業としておもしろいこともあるのだ。
一般的に、お菓子作りの本は女の子向けというイメージがあるが、この本は男の子も楽しめる。例えばご飯を炊くとか、お味噌汁を作るという日常的なことでは、あまり興味が湧かないものだ。そうではなく、お菓子作りがプラモデルを作るような、図画工作に近い感覚であることがポイントになる。紹介しているカブトムシ、クワガタなどの「虫チョコレート」からヒントを得て『機動戦士ガンダム』や『仮面ライダー』の顔に応用してもよいのだ。「機関車ケーキ」も同様で、電車にも自動車にもできる。
■世界にひとつだけのお菓子
福田さんがお菓子作りをするきっかけになったのは、親に買ってもらった玩具『ママ・レンジ』だった。キッチンのコンロを再現したもので、付属のフライパンの上で直径10cmほどのホットケーキを焼ける。中学校・高等学校に進学しても、特に家庭科の料理の授業が好きだった。当時、化粧品会社のキャンペーンCMソングで、竹内まりやの『不思議なピーチパイ』がヒットしていたときには、よくピーチパイを焼いたという。美術大学では店舗設計、ディスプレイ、舞台美術、装飾などの空間演出を学びながら、趣味でお菓子作りをしていた。
また、福田さんがお母さんから与えられた本に『レモンと実験』があった。アメリカの科学者、A・ハリス・ストーンが書いた科学絵本の翻訳版で、レモンを使った様々な実験を親しみやすいピーター・P・プラセンシアのイラスト付きで紹介しているものだ。黒と黄色の2色しか使われていない絵本で、レモンの汁をコインや錆(さ)びたスチール、紅茶に垂らしたらどうなるか、レモンで電極はどうなるか、レモン汁で泡のフォームを作るなど男の子と女の子が実験する。そして、画期的だったのは、実験結果が書かれていないことだ。つまり、実際に実験をしてみなければ結果がわからない。当時、福田さんはそれらを試み、レモンは食べること以外にも色々な実験ができることを知った。創造力を刺激されたこの本は『こどもお菓子部』を作る際にも頭の中にあったという。
タイトルに『おやこで作ろう』とあるように、家庭内お菓子部として親子で、それもお母さんだけではなくお父さんとも一緒に相談しながら、興味のあるものから作ってみる。遊び心いっぱいのこの本は、親子で楽しめるコミュニケーションのツールでもあるのだ。おいしいものは自分でも作れる。世界にひとつだけのお菓子。女の子も男の子も、作る楽しみ、食べる楽しみ、そして夢もあり、心まで満たしてくれる。
『sesame』2014年5月号(2014年4月7日発売)より
http://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=15793