へるん先生とは、ラフカディオ・ハーンこと小泉八雲のこと。松江で英語教師となる際、県との契約書にヘルンとカタカナで書かれていたため、そのように呼ばれた。漂泊の旅を重ねたのち日本を訪ね、物語作家の才を開花させる。彼の心の旅の軌跡をジャーナリストが追った。
ギリシャに生まれ、アイルランドとイギリスで少年時代をすごし、19歳でアメリカに渡ったハーンは、白人社会のはぐれ者を自負していた。違法と知りつつ黒人と結婚し、新聞社から解雇され、40歳にしてほぼ無一文で来日する。天涯孤独の苦労人は、政府から招聘されたお雇い外国人や、十分な資金をもって見聞旅行をしたイザベラ・バードとは違っていた。「友人」のように日本人と接するハーンの姿に、著者は元祖バックパッカーの姿を見る。偏見のない心で異郷の地を楽しみ、セツと微笑ましい結婚生活を送った。
時おり、著者自身の鉄道の旅の記録が入り交じる。カナダ・トロント発の寝台列車は、今も線路端の焚火を合図に列車を停め、先住民たちを無料で乗せるという。
※週刊朝日 2014年4月4日号