2013年、在日特権を許さない市民の会(在特会)が在日韓国・朝鮮人(在日)を対象に展開する過激なデモと、それに対するカウンター活動が世間の注目を集めた。本書は後者の中核を担う著者による、対抗言論の書だ。
学術研究やメディアが荒唐無稽と黙殺するなかで、実体のない「在日特権」は拡大した。デマの数々に切断線を引くため、代表的なもの──特別永住資格、通名、生活保護受給率など──を取り上げ、いずれも「特権」に該当しないことを丁寧に検証する。目玉は三重県伊賀市への取材章だ。2007年、同市で在日への住民税が減免されていたことが明らかになり、ネットで「特権」と騒がれた。著者は関係者に再取材をかけ、減免の本来の狙いが曖昧な法的地位ゆえに生活苦を抱えた在日への救済策であったことを炙りだす。現場まで赴くその真摯な姿勢に、頭が下がる。
ヘイトスピーチへの問題認識は、国内で未だ十全とは言い難い。だからこそ現状への対症療法に留めず、将来まで読み継ぎたい一冊だ。
※週刊朝日 2014年1月24日号