大佛次郎論壇賞に決まった今野晴貴『ブラック企業』(文春新書)を読んだ。たまたま若者を使い捨てにするヒドい企業があるというより、ブラック企業が社会の仕組みの一部になってしまっていることに慄然とする。同じ著者の『ブラック企業ビジネス』(朝日新書)では、ブラック企業に極悪な手口を指南する弁護士や社労士などが告発されている。ヒドい、ヒドすぎる。
ブラック企業に入ってしまったらどうするか。選択肢は三つだ。逃げるか、戦うか、死ぬか。どれもめんどくさい。うんざりする。
小玉歩『仮面社畜のススメ』は、こんな時代だから売れている本だ。著者の経歴がおもしろい。キヤノンの関連会社に勤め、優秀社員として表彰されるほどだったが解雇されてしまう。その理由は、ネットを使った副業の収入が一億円を超えたからだそうだ。
「仮面社畜」とは、社畜、つまり会社に飼い慣らされているふりをして、ワガママに生きるサラリーマンのことである。会社に都合よく使われるのではなく、会社を徹底的に利用する。利用するといっても、会社の備品を盗むとか、経費の領収書にゼロを書き加えるといった非合法なことじゃない(まあ、それくらい残業代がわりに、やっちゃってもいいんじゃないかと、個人的には思うけど)。
社畜から仮面社畜に変身するには、マインドを変えろと小玉歩はいう。それも「環境」「裏ワザ」「資源」の三つのマインドを。たとえば「社畜は、怒られたら、すぐに謝る。仮面社畜は、冷静に反論する」とか、「社畜は、喫茶店やマンガ喫茶でサボる。仮面社畜は、家に帰る」とか。
おもしろいアイデア、なるほどなと感心するアイデアもある。でも半分以上は、「デキるサラリーマン」を「仮面社畜」と言い換えただけだ。ブラック企業というのは、こうした一人ひとりの従業員の創造性を潰して、使い捨てることで成り立っている。ブラック企業は仮面社畜を許さない。
※週刊朝日 2014年1月24日号
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