『森の生活』の著者による、講演をもとにした晩年のエッセイ。社会よりも自然の中で生きることを選んだアメリカ人の思想家が、絶対的な自由と野性の美しさを説く。
 「歩く」ことは、「聖なる土地」へとさすらうことにつながるとソローは述べる。それは余暇と自由と独立を必要とする営みでもある。19世紀、ニューイングランドの人口2000人ほどの町に暮らしていた彼は、毎日4、5時間、距離にして2、30キロを歩いた。家の戸口から、一軒の家のそばも通らず、森に分け入り、ボートやスケート靴を使って川や湖の上を行く。つまり、個人の所有の境界を自由にまたいで黙想するのだ。「詩人とは、風や川を自分に仕えさせ、自分のために語らせる者」。ときおり箴言のような表現を織り交ぜ、知識の過剰に対する無知の好ましさを綴る。
 冒頭には他書の断章や20世紀初頭の風景が挿入され、詩的で預言者的なエッセイへと快く導かれる。また、後半には著者の生前のエピソードを収め、彼女の父親に反対されて実らなかった恋や、税の支払いを拒否した結果の投獄事件にも触れる。

週刊朝日 2013年12月13日号

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