最近では全国の9割近い小学校で防犯ブザーが配られているという。犯罪が起こりそうな場所を記した地域安全マップが作成され、暗い路地には街灯、街角には監視カメラが並ぶ。犯罪防止の取り組みの機運は高まるが、著者はこうした防犯の「常識」を最近の研究成果を踏まえ、検証する。
 「不審者に注意しましょう」と呼びかけても、子どもは不審者を見分けられず、防犯ブザーを押せない。実際、ブザーを鳴らした99.9%が誤報だった自治体もあるほど。暗闇では犯罪者も身動きがとれないため、街灯の明かりが逆に犯罪を誘発するケースもある。人通りが多いと意外にも犯罪のリスクは高まる。また、捕まらないと思い込んだ犯罪者に監視カメラは抑止力を全く持たない。犯罪者の立場で防犯活動を眺めることで、意外な弱点が浮き彫りになる。
 防犯の議論は犯罪者の気質や動機に注目しがちだが、犯罪の機会をいかに街から消すかが重要であることを著者は強調する。防犯活動とは地域コミュニティの再構築そのものであるという視点が興味深い。

週刊朝日 2013年11月15日号