消費増税を決めても、集団的自衛権の行使に意欲を見せても、支持率50%超の現内閣。「いったい何なのこの国は?」と思いつつ、遅ればせながら今年春に文庫化された室積光『史上最強の内閣』を読んだ。
 北朝鮮が日本に向けた中距離弾道ミサイルに燃料注入をはじめたところから物語ははじまる。手に余ると判断した自由民権党の浅尾一郎首相は緊急記者会見を開く。「大変長きにわたり、皆様をたばかって申し訳ありません。私たち内閣はいわば二軍でありまして、日本国には実は最強の『影の内閣』があるのです」。
 かくて姿を現した非常時だけの期間限定内閣は、首相の二条友麿、官房長官の松平杜方、外務大臣の坂本万次郎、防衛大臣の山本軍治、国家公安委員長の西郷利明ら、どこかで見たような名の人物ばかり。ここに記録係として指名された朝地新聞の半田記者と東亜テレビの小松記者が加わって、硬軟とり混ぜた対北朝鮮外交が繰り広げられるのだ。
 といっても、そこは奇想天外なエンターテインメント。東京ネズミーランドで拘束された、シン・チョンイル将軍の長男のシン・ジャンナムはバラエティ番組で引っ張りダコになるわ、工作員として送り込まれた4人の男性は「エージェント・フォー」の名で歌手デビューして人気アイドルになるわ、物語は予想外の方向に……。つまりドタバタ喜劇である。
 それでもこの小説に多少の意義があるとしたら、右も左も軽く蹴飛ばし、北朝鮮にも日本にも米国にも批評的な目をむけている点だろう。6カ国から米ロを外した中日韓朝の4カ国協議のために平壌に向かう途中、二条首相は口にするのだ。
 「もともと、150年前からこの当事者だけで話し合えばずっと平和だったですからなあ。(略)住んでるもんだけで話そうやおへんか」
 単行本が出版されたのは2010年11月。3年後、内閣は日本版NSCとやらとセットの特定秘密保護法案なんてものまで持ち出してきた。二条内閣の次の出番は間近かも。

週刊朝日 2013年11月15日号