待ってました! 全640ページ2段組、原稿用紙にして1400枚の大長編を一気に読んだ。『黙示録』である。『風車祭(カジマヤー)』や『シャングリ・ラ』などで知られる池上永一の最新作である。近世の沖縄を舞台にした琉球サーガの一冊。大ヒットした『テンペスト』や『トロイメライ』が19世紀の琉球を描いたのに対して、『黙示録』はその少し前、18世紀、尚敬王(しょうけいおう)の時代を描く。
 主人公の蘇了泉(そりょうせん)は病気の母と二人で暮らす貧しい少年である。粗暴で礼儀や教養のかけらもないが、王朝の踊奉行、石羅吾(いしらご)に才能を見いだされる。了泉には人びとの目を引きつけずにおかない魅力があるというのだ。舞踊で天下を取れば、贅沢な暮らしもできる、そして何より母の病気を治す薬も手に入る。石羅吾にそそのかされた了泉は舞踊の道に入る。
 ライバルの雲胡(くもこ)との争いや、繰り返される挫折と再起など、ページをめくる手を休ませない。永久に走り続けるジェットコースターに乗っている気分だ。すばらしいのは、了泉がちっとも良い子でないところである。了泉は成功のためなら手段を選ばない。いつだって平気で手を汚す。そしてその欲が回りまわって、自分の首を絞めることになる。挫折と再起を繰り返しながら、了泉は人間的にも成長していく。内面の成長が彼の舞を深めていく。
 当時の琉球は「日本」ではなかった。清時代の中国とも、江戸幕府ともつきあう、独立した王朝をもっていた。この小説では、薩摩や江戸幕府との関係、清王朝との関係が、とても具体的に書かれている。強い国(日本)ともっと強い国(清国)に挟まれて、小さな琉球は舞踊や工芸品など文化の力でその独自性を発揮していた。「尖閣諸島が日本固有の領土であることは、歴史的にも国際法上も疑いのないところ」と外務省はいうけれども、領土問題は琉球の歴史という観点からもよく考える必要がある。そして、アメリカの基地だらけの現代の沖縄についても。

週刊朝日 2013年11月15日号