真珠が古来そんなに珍重されてきたとは知らなんだ。考えてみれば、ダイヤを掘り出して磨くにはそれなりの設備が必要だが大昔はそんなものはなかっただろうし、真珠は貝をあければ中から光る玉が出てくるわけで、たいへんな宝物だったことだろう。
 本書の口絵に、世界最古の真珠の写真が載っている。福井の貝塚から出たという、5500年前の真珠である。それだけ時を経ているので、真珠というよりは白い雛アラレみたいなことになっているが、当時はさぞや輝いて人々を魅了したことでしょう。でも貝塚ってことは捨てられてたのか。この真珠は「おそらくドブガイの真珠」と説明にある。ドブガイって……。
 メソポタミアでは真珠は「魚の眼」と呼ばれていた、というのも面白い。アジの塩焼きを食べたあと、目玉をほじくりだすと丸くて白くて硬くて真珠みたいだなあと思ったものだ。マルゲリータ、というのは真珠という意味だというのも初めて知った。イタリアのマルゲリータ王妃はピッツァ・マルゲリータを考案して、名前の通り真珠を愛したという。トマトとバジリコのピザは赤と緑の印象が強くて、真珠とつながりがあるのかどうかはすぐには判断できない。というような、どうでもいい感慨にふけることもできる。
 真珠が貝の中で生成されるメカニズムや、真珠の歴史も詳しく書いてあってタメになる。特に、日本における養殖真珠の話。養殖真珠といえばミキモトであるが、御木本幸吉は鳥羽のうどん屋出身で、鹿鳴館も西洋の舞踏会にも無縁だというのに真珠宝飾品事業に乗り出した。その真珠製品は、今そこで売ってても買いたいようなデザインでたいしたものだ。
 でも御木本幸吉が養殖に成功したのは半円真珠で、球形真珠は別人がつくり、さらに別人が実用化したのだ。その別人をもっと顕彰してあげてほしいものだと思う。あと、私に残る真珠のナゾは「アコヤガイは食べると旨いのか?」だけになった。

週刊朝日 2013年10月4日号