著者は編集者やマンガ評論家として活動する明治大学准教授。ちょっと変わったタイトルは、本書が映画、マンガ、文学などのジャンルを横断しつつ「いわゆるコントラバーシャルな(=議論を呼ぶ)」類の、だからこそ人々が話題にするのを避ける「きわきわ」な問題だけを追いかけて綴った「ゼロ年代(+α)の日本」論であることに由来している。
美容整形、自傷、不倫、セックスワークなど、ゴシップとして消費されがちな話題を積極的に取り上げ考察する中で見えてくるのは、「生きにくさ」とでも呼ぶべきものだ。とくに「女の生きにくさ」を反映した作品の多さには、改めて驚かされる。蜷川実花によって映画化された岡崎京子『ヘルタースケルター』、楳図かずお『洗礼』、江國香織『薔薇の木 枇杷の木 檸檬の木』といった作品群に通底する「女の生きにくさ」は、やがてフィクションの世界を飛び出し、「今にも崖から落ちようとしている」「『フクシマ』以後」のわたしたち自身へと繋がってゆく。恐ろしくも美しい断崖絶壁(きわきわ)を覗き込む時のような緊張感が最後まで続く評論集だ。
※週刊朝日 2013年9月13日号