桜庭ななみ、麻生久美子、萩原聖人、原日出子、仙道敦子、杉本哲太、手塚理美、北村有起哉……。これだけ豪華な俳優陣が顔をそろえているのに自主製作映画!? コロナ禍の最中に敢然と撮影され、映画業界で大いに話題になっている作品がある。
【この映画に出演された仙道敦子さんと杉本哲太さんの場面カットがこちら】
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「有り、触れた、未来」(宮城県先行公開中、3月10日全国公開)は、10年前に恋人を交通事故で喪った女性(桜庭ななみ)、自然災害で妻と長男を喪い生きる意欲を失った男性(北村有起哉)、娘の結婚式に出るべく末期がんと闘う女性(仙道敦子)などが織りなす群像劇だ。
メガホンを取ったのは、「グッモーエビアン!」(2012年)などの山本透監督。
この映画を撮るきっかけとなったのは、山本監督が師と仰ぐ大林宣彦さんの死だ。大林さんは肺がんで20年4月10日に亡くなったが、その少し前に山本監督は大林さんと会っていた。
「大林監督は余命3カ月と言われたんですが、その宣告から3年8カ月も生きられ、その間にも作品を撮り続けました。『広島出身なのに放射線治療をしてるなんて、皮肉だろう。でも私は映画を撮り続けるんだ。120歳まで撮るよ』と言っていました。そのうえで『あと3カ月で死ぬと言われたら、君はどんな映画を撮るんだい?』と」
大林さんの死の3日前、新型コロナウイルス対策として、緊急事態宣言が発出された。山本監督が携わっていた作品も製作が止まるなど、エンターテインメント業界で活動休止が相次いだ。
「その後、私が主催するワークショップで育った若い俳優が、自ら命を絶ちました。仕事がまったくない状況でメンタルを保つのは難しい。ほかにも縁のあった俳優たちの訃報が相次ぎました」
そこで山本監督は、命の重みを問い直す作品を撮ることを決意。題材を考えていた21年1月、自分の本棚にあった『生かされて生きる~震災を語り継ぐ~』にたまたま目が留まった。この本は俳優の舞木ひと美さんからもらったもの。著者の齋藤幸男さんは舞木さんの父で、東日本大震災時には宮城県石巻西高校の教頭を務めていた。