北村有起哉さん(c)UNCHAIN10+1
北村有起哉さん(c)UNCHAIN10+1

 スナックで飲むシーンは石巻市で、ボクシングの試合は多賀城市総合体育館で撮影。スナックのママ役の麻生久美子さん、ボクシングトレーナー役の萩原聖人さんが、そのシーンのために宮城県入りした。

 撮影は21年の10月。ほぼ1カ月をかけて行われた。その間、撮影隊は東松島市の「キボッチャ」に宿泊。被災した野蒜(のびる)小学校の建物を手直しして造られた防災体験型宿泊施設だ。

 撮影隊の想いが地元の人に伝わったのだろう。カキ漁師がよく訪れては、カキを届けてくれた。また昼食は、地元の人々が撮影場所に炊飯器と米を運び、その場でご飯を炊いてくれたという。

「宮城の方の愛情を感じました。ロケ地で炊き立てのご飯を食べられるなんて、これ以上の贅沢はありません。皆のテンションが上がりました」(山本監督)

 北村有起哉さんは、

「これまで震災を扱った作品はいくつか演(や)らせていただきました。常に熱いメッセージが込められておりましたが、今回も、作品に寄り添いながら、慎みを持って参加させていただきました」

 と語りつつ、地元の熱気に気圧(けお)されたという。

「たくさんの鯉のぼりを揚げるシーンがあります。スタッフ、地元のエキストラ、地元のボランティアの方々、まさに総出で作りあげました。とにかく地元の皆さんのエネルギーが圧倒的で脱帽しました。被災した方々の明るさに面食らいながら、役を忘れて心の底からずっと震えてました」

 桜庭さんはコロナ禍を乗り越えて作られた映画について、こう語る。

「自分がドラマから元気をもらったように、今度は自分が作品を通して誰かに元気を届けたいと強く思いました。自分自身が前向きになったり、温かい気持ちになったり、また、近くの人に言葉をかけてみようかな、手を差し伸べてみようかなと、ちょっとだけ気持ちに変化や動きを感じてもらえればと願っています」

 表現者の力と地元民の熱が、稀有(けう)な自主製作映画を生んだ。(本誌・菊地武顕)

週刊朝日  2023年3月17日号

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