光と影が交じる階段の踊り場のような幻想空間で隠れんぼする生と死。そんなイメージを抱かせる雑誌連載の短編8作を編む。どこの町、どこの国とも舞台の場所は明記されないが登場人物はおしなべてミニマルな世界に住む。孤独で内省的だ。でも暗くない。彼らには寄り添ってくれるものたちがいる。
 例えば、スーパーを回り特売品実演販売で生計を立てる女の関心事は、海外の檜舞台に遠征する優駿、ではなくて同行の帯同馬だ。報じられるはずもないオマケの動向を彼女はあえて熱心に追う。例えば動物園の売店で働く女。子を手放した束の間の母親の贔屓(ひいき)は、チーターである。多産だがハイエナなどに狙われ生存率は低いという種の顔を彩る隈取を涙の跡のようだ、と彼女は思う。
 あるいは乱獲の果てに絶滅した野兎の最後の一羽に思いを馳せる男やもめ。勤勉の代名詞・ビーバーの白骨化した頭骨とその仕事を明かす小枝を、執筆を励ます守護神と大切にする女性作家の物語。著者特製のドールハウスを覗く感だ。ひたすら静かなたたずまいのこの家で、悲しみは昇華する。

週刊朝日 2013年8月30日号