――ライカが中心ですね
最初はIIIfです。12年ほど前、仕事仲間のディレクターに「ほら、ネコのひげまで鮮明に写るだろう。ここでカメラのよしあしがわかるんだ」なんてしきりにすすめられて。それで感動して、頼んで買ってきてもらいました。でも使っているうちにボディーの一部が割れたり、フィルムを切って装填(そうてん)するのが面倒になり、M6に買い換えようとレモン社に行った。だけど、手に取ってみると大きくて重い。これは持って歩かないなとあきらめて、その日は帰ったんですが、半年くらいするとまたほしくなる。見に行っては帰り、見に行っては帰り……そんなある日、ぼくがやっていたラジオ番組にゲストとして、大好きなハービー・山口さんが、M6を持ってやってきた。それを見て、「やっぱりこれだな」と。でも、買ったのは当時発売されたばかりのM7。これが夢のように撮りやすい。仕上がりも独自の味がある。とても気に入り、ハービーさんのまねをして、どこへ行くにも持ち歩くようになりました。いちばん出番の多いカメラです。
――エルメスライカは?
2年くらい前、フランクフルトのライカショップです。約100万円という価格に迷いに迷ったんですが、500台限定と聞いて決断した。一生ものだし、使い込むと革も格好よくなる。ところが、ちょっとした事件があったんです。ある人と会食したとき、いつも持ち歩いているM7で撮っていたら、「小山さんはカメラ好きなんですね。いいカメラをもらったんだけど、使わないからあげますよ」と言って、後日、持ってきてくれたのが何と、エルメスライカ!(笑)。これは限定品だから、100万円以上で売れますよと言ったんですが、「プレゼントされたものを売る気はない。好きな人に使ってもらうほうがいい」と。同じのを持っていますとは言えず、そのままもらっちゃいました(笑)。機能的にも使い勝手もM7とほとんど同じですが、被写体が女性のときはカメラを通して会話がはずみ、生き生きした表情になるという効果があります。撮影に使っている人は見たことないですね。
――どんなときにシャッターを切るんですか?
画(え)になるなと思ったものをパシャパシャ撮る。風景や街中の人が多いですね。あとで気に入ったものを伸ばして、パネルにもします。インテリアとして飾りたいという前提だから、どうしてもモノクロが多い。月に1回2~3泊の旅行のときは、M7とコンタックスRTSIIIが仕事を完全に忘れさせてくれる旅の相棒です。たまに無性に触りたくなるんです。いとおしいというか、触っていて気持ちいい。
プリントはモノクロ専門のプリンターに頼んでいます。職人気質のおじさんで、「これはプリントしていい」とベタ焼きに勝手に丸印をつけてくるんです。36枚のうち5枚しか丸がつかないこともあって、無印の写真は頼んでもなかなかプリントしてくれない(笑)。逆におじさんが気に入ると、フィルム消化のために適当に撮ったスナップでも引伸ばしてくる。だからプリントはおじさんへの挑戦。添削されてるようで毎回ドキドキします。
あまり言ってないんですが、ぼくはカメラマンネームを持ってるんですよ。雑誌の連載にいたずら心で「写真:アレックス・ムートン」とクレジットを入れています。語源はシャトー・ムートン・ロートシルドというワインで、ムートンはフランス語で「小山」。アレックスは、アレックス・モールトンという自転車が好きだから。いかにも実在しそうな名前でしょう。この写真は、アレックス・ムートンだよと言って雑誌を見せると、2人に1人は「へえ、さすがだね」なんて知ったかぶりする(笑)。それで写真を見た人から、プロのカメラマンとして仕事が来たらいいなとねらっているんですが、まだないですね(笑)。
※このインタビューは「アサヒカメラ 2007年5月号」に掲載されたものです